第9章

寮に戻る道すがら、杏奈のスマホが短く震えた。友人からのLINEメッセージだった。

『マジで最悪! 寮、断水したんだけど! 業者さん呼んだけど、復旧は早くても明日の朝だって!』

「……杏奈は、まだ戻らないのか」

その時、葉川訪の声が車内の沈黙を破った。

「寮、水が止まったんなら」

彼の声は、少しだけ強張っていた。

「……うちのシャワー、使うか」

そのぎこちない誘いには、隠しきれない緊張と羞恥が滲んでいた。

杏奈は、静かに頷いた。

「うん」

地下駐車場からエレベーターへ。そして、彼の家へ。

無機質な金属のドアがゆっくりと閉まり、一平方メートルにも満たない密室に...

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