第1章

藤堂詩織が帰宅した時、家は相変わらず静まり返っていた。

今日は彼女の誕生日だが、夫も子供たちも気にも留めていない。

静寂の中、スマートフォンの震える音がやけに耳障りに響く。病院からのメッセージだった。

結城時也からは、やはり一本の電話すらない。

藤堂詩織は自嘲気味に口角を上げ、長年の家事でできた手のひらの薄いタコをそっと撫でた。

彼女は医師に返信し、明日診断書を受け取りに行くことを承諾した。

目を閉じると、またもや慣れ親しんだ腹痛が襲ってくる。藤堂詩織は、おそらく結果は楽観視できないものだろうと悟っていた。

彼女は引きずるようにして二階へ上がると、物音に気づいた家政婦の田中さんが出てきた。彼女の顔には、驚きと気まずさが浮かんでいる。「奥様、あの……どうして急にお戻りに?」

「時也さんと子供たちは?」

「旦那様は……会社でまだお戻りではありません。坊ちゃまとお嬢様は先ほど食事を終えられ、二階で遊んでいらっしゃいます」田中さんは慌てて彼女の鞄を受け取ると、居心地悪そうに手を揉んだ。「お帰りの道中お疲れでしょう。お部屋までご案内しますので、まずはお休みになってください」

「いいえ、結構よ。子供たちの様子を見てくるわ」

藤堂詩織は子供たちの部屋へ向かい、ドアを押し開けた。

姉の結城沙耶と弟の結城和。五歳になる双子の姉弟は揃いの服を着て、絨毯の上に座り込んで折り紙をしているようだった。ぷくぷくとした二つの小さな手が真剣に色紙を扱い、藤堂詩織には全く気づいていない。

姉は黒葡萄のような大きな瞳を持ち、この幼さで既に美人の面影があり、藤堂詩織によく似ている。弟は頭の回転が速く、設計図を一目で見抜く賢さは結城時也譲りだ。

彼女はそっと二人の背後にかがみ込み、その体を抱きしめた。

双子は振り返り、彼女だとわかると、声を揃えてあどけなく言った。「ママ!」

そして、すぐにまた向き直り、手元の作業に没頭し始めた。

藤堂詩織が二人の子供に会うのは、もうずいぶん久しぶりだった。彼女は忙しなく動く二つの小さな頭に口づけし、優しい声で尋ねた。「沙耶、和。明日はママと一緒にいてくれない? ママ、あなたたちとずっと遊んでないから」

子供たちがいてくれれば、まだ生きる希望が持てるかもしれない。

「だめ! 明日は白川おばさんが退院するから、会いに行くって約束してるもん!」

結城沙耶がぐいと体を押し、その腕から抜け出した。

結城和も同調する。「そうだよ! 今日は白川おばさんに百合の花をあげるために作るんだ。パパが、白川おばさんは百合の花が一番好きだって言ってた」

藤堂詩織の目頭が赤くなり、その場で呆然と立ち尽くした。

「ママ見て、これ上手にできたでしょ? パパに何日も教えてもらってやっとできたんだよ」沙耶の舌足らずな声には、隠しきれない喜びが満ちていた。

「ぼくのほうが上手だもん! 白川おばさんはきっとぼくのほうが好きだよ!」和は小さな唇を尖らせ、不満げに呟いた。

子供たちは自分と一日過ごすことすら嫌がるのに、白川という女性の退院のために一週間も折り紙を習っていたのだ。

藤堂詩織は、二人を抱きしめていた手を静かに下ろした。

あの出産時、大出血で半ば命を落としかけながら、ようやくこの子たちを無事に産んだ。そのせいで、自分は長年の体調不良を抱えることになった。

あの時の難産のせいじゃなければ、ここまで体調が悪化することはなかったはずだと、医者は言っていた。

今となっては、ただ皮肉としか思えなかった。

彼女は青白い顔で、ふらつきながら立ち上がり、そのまま一言も発さずに部屋を後にした。

「奥様、お部屋の準備はできております」田中さんが彼女の後についてリビングへ来ると言った。「旦那様から、今夜は用事があって戻られないので、ご自身で早めにお休みください、とのことです」

藤堂詩織は手で田中さんを制し、諦めきれずにスマートフォンを取り出すと、ピン留めされた相手の番号をタップした。

呼び出し音は長く続いた。自動で切れそうになったまさにその時、ようやく相手が出た。

「何か用か?」

結城時也の声は冷たく低く、囁くときにはことさら磁性を帯びるが、藤堂詩織にはその声色に隠された微かな苛立ちが聞き取れた。

「明日……お時間はありますか?」

向こうは長い間沈黙し、それからようやく、言葉を惜しむように言った。「会社で用事がある」

予想通りの答えに、藤堂詩織は全身の力が一瞬で抜けていくのを感じた。

「時也さん、どなた?」

白川詩帆の声だった。

その後、声はくぐもって聞こえにくくなる。結城時也がスマートフォンのマイクを覆い、相手に何か話しているようだった。

藤堂詩織の指先が氷のように冷たくなり、スマートフォンを固く握りしめた。

会社にいると言っていたのではなかったか? どうして……。

苦笑を一つ漏らし、自分はなんと鈍く、滑稽なのだろうと思った。

明日、白川詩帆が退院するのだ。結城時也が彼女に付き添わないわけがない。

「用なら秘書に」結城時也は冷ややかにそう言うと、電話を切った。

藤堂詩織はスマートフォンを握りしめ、胸の奥がちくりと痛んだ。

自分の一方的な想いだけで結城家に嫁いで丸七年、それでもこの氷山を溶かすことはできなかった。

彼女もかつては医学界の天才であり、H大の院長が最も目をかけた最後の愛弟子で、国を代表して数々の最先端の研究活動に参加していた。だが、その絶頂期に結城時也と結婚することを選び、彼のために学問を捨て、厨房に立ち、二人の子供の世話をする乳母となった。

彼女は誠心誠意、家中の大小様々な事を切り盛りし、宴席から財務まで何一つ疎かにしなかった。

結城家の体面のため、かつては実験と報告書の作成しか知らなかった人間が、各方面の利害を調整することを学んだ。

精密機器を扱っていたその手は、ある事故で結城時也を救ったために、もはや精密な実験をこなすことはできなくなり……。

今となっては、二人の子供の体を洗い、食事を与え、家事を片付けることしかできない。

彼女はすべてを捨て、家業を支える専業主婦となった。

その結果得られたのは、自分が病に苦しむ中、夫が他の女に付き添っているという現実だった。

藤堂詩織はふと、自分の人生が徹頭徹尾、一つの冗談だったように思えた。

腹の底から激しい痛みが込み上げ、彼女は咄嗟に口を押さえて主寝室のバスルームに駆け込んだが、吐き出せたのは血の混じった酸っぱい胃液だけだった。

翌日、藤堂詩織は一人でタクシーを拾い、病院へ向かった。

——卵巣癌、末期。

結果はとうに覚悟していたが、それでもこの数文字に胸を刺された。

車に乗って去る前、廊下でいくつかの見慣れた姿を見つけた。

シンプルな白いワンピースを着た女が、最もよく知る夫と共に視界に入ってくる。彼女の腕には、心を込めて手作りされた百合の花束が抱えられていた——。

それは、彼女が命懸けで産んだ双子たちが、昨日一日かけて真剣に作った折り紙の花だった。

男は看護師からカルテを受け取って署名し、女のために退院手続きを済ませていた。

そして二人は、それぞれ玉のように愛らしい子供の手を片方ずつ引き、何かを笑いながら話しつつ、病院の出口へと向かっていく。

美男美女に可愛い子供たち。四人家族の幸せそうな様子は、多くの人々の目を引いた。

藤堂詩織は全身の血が凍りつくのを感じた。

そうだった。彼らは今日、白川詩帆を迎えに来ると言っていた。結城時也が来ないはずがない。

会社に用事があるというのは、いつだって自分をあしらうための口実に過ぎなかったのだ。

彼らの婚約は、もとより形ばかりのものだった。

もし結城の御隠居様の強い勧めがなければ、結城時也が彼女と結婚することなどありえなかっただろう。

以前の藤堂詩織であれば、駆け寄って問いただしていたかもしれない。

しかし、今は。

心はあまりにも傷つきすぎて、もはや痛みを感じず、ただ麻痺しているだけだった。

「お願いします」

行き先を告げ、藤堂詩織はもう四人の方を見なかった。運転手が車を車線へと滑り込ませる。

今回、藤堂詩織はもう迷わなかった。連絡先リストから弁護士の友人を開き、冷たく細い指先で一文字一文字打ち込んでいく。「決心がつきました。作成済みの離婚協議書を送ってください」

七年。もう、目を覚ますべき時だった。

この人生で、一度も自分のために生きたことがないように思う。残された時間は少ないのだから、一度くらいは自分のために生きてみたい。

屋敷の前に着くと、彼女は運転手に外で待つよう頼んだ。

印刷した離婚協議書を封筒に入れ、あのがんの診断書と一緒に、結城時也の書斎の机に置いた。

そして昨日のスーツケースを手に、来た時と同じように、また一人で去っていった。

藤堂詩織は新しい住所を告げた。

運転手がアクセルを踏み込むと、車は邸宅街を抜け、高速道路へと合流した。

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