第10章

藤堂詩織は急いで食事を進めた。テーブルにはご馳走が並んでいるというのに、砂を噛むような味しかしない。この気まずい集まりを、一刻も早く終わらせたかった。

向かいに座る義姉の林真奈美は、結城の母と笑いながら何かを話していたが、その視線が不意に藤堂詩織の手に移った瞬間、顔から笑みがすっと消えた。

「藤堂詩織さん」彼女は探るような口調で切り出した。「その指輪……どうして着けていないの?」

その一言で、テーブルを囲んでいた会話がぴたりと止んだ。

全員の視線が、一斉に藤堂詩織の左手の薬指に注がれる。そこは空っぽで、ただ白く浅い、ほとんど気づかないほどの跡が残っているだけだった。

藤堂詩織は箸を持...

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