第2章

夜が近づく頃、結城時也は二人の子供を連れてようやく帰ってきた。

別荘は静まり返っており、結城沙耶は車の中で疲れ果ててうとうとしていた。小さな頭が、彼の広い肩にもたれかかっている。

「パパ、まだ白川おばさんと遊びたい」

結城和のぷくぷくとした小さな顔がくしゃりと歪む。

「また今度な」

運転手がドアを開けると、結城時也は子供を一人ずつ腕に抱えて車を降りた。

結城和は小さな顔を上げ、無邪気に結城時也に尋ねる。

「パパ! 白川おばさんのところに、しょっちゅう遊びに行ってもいい? それか……白川おばさん、私たちと一緒に住めないかな? 私とお姉ちゃん、白川おばさんと一緒に住みたい」

結城時也は一瞬虚を突かれたが、軽く結城和の髪を撫でて言った。

「今度、白川おばさんに会いたくなったら、パパがまた連れて行ってやる」

結城和の顔に、ようやく明るさが戻った。

もし白川詩帆がママだったらどんなにいいだろう……。

一瞬そう思ったが、結城和はすぐに首を横に振った。藤堂詩織はいつも優しくて思いやりがあり、何から何まで面倒を見てくれる。以前、パパが接待で帰ってこなかった時も、ママは自分たちを寝かしつけてくれただけでなく、ずっとパパを待って世話をしていた。

自分たちには、やっぱり藤堂詩織が必要な時もある。

「あれ、ママはもう寝ちゃったのかな? 電気もついてない」

結城和が部屋を見上げる。いつもならどんなに遅くても、藤堂詩織は玄関で彼らを待っていてくれるはずだった。

なのに、今日はどうして出てこないのだろう。

結城時也は答えず、田中さんが彼の方へ歩み寄り、従順に二人の子供の手を取って、低い声で告げるのが見えた——。

「旦那様、奥様はもう出て行かれました」

出て行った?

結城時也は軽く眉をひそめたが、すぐに元に戻した。

おそらく藤堂の実家で何かあったのだろう。彼はそれ以上深く考えなかった。

藤堂詩織は、これまで彼に心配をかけたことなどない。

二人の子供を田中さんに任せ、入浴させるよう言いつけると、結城時也は一人で二階の部屋へと上がった。

今日はひどく疲れていた。二人の子供が白川詩帆と遊びたいとずっとぐずり、帰りがすっかり遅くなってしまったのだ。

夜の帳が深く下りる中、結城時也が灯りをつけると、ベッドサイドに置かれた封筒に気がついた。

そこには、整った秀麗な文字で——。

『結城時也様』

と書かれていた。

彼がそれを開けようとした時、突然ドアから田中さんの困り果てたようなノックの音が聞こえた。

「旦那様、若様とお嬢様が、寝かしつけに来てほしいとぐずっておられます」

普段は藤堂詩織が二人の子供を入浴させ、寝かしつけていた。たとえ彼女が不在でも、どんなに遅くとも電話をかけてきて寝かしつけてくれるのが常だった。

お風呂から上がり、小さな巻き毛を散らした結城沙耶がベッドの端に座り、短い足をぷらぷらさせている。彼女は電話機能付きの腕時計を持ち上げ、ママに電話しようか少し迷っていたが、同じくお風呂を済ませたばかりの結城和が駆け寄ってきてそれを止めた。

「お姉ちゃん、やっぱり電話しないほうがいいよ。ママ、きっと忘れちゃってるんだよ」

それでも結城沙耶は、ママの優しい声で寝る前のお話を聞かせてもらいたかった。

結城和は小さな腕をばたつかせながらもう一方の子供用ベッドに這い上がると、ぶつぶつと呟いた。

「だってお姉ちゃんが電話したら、ママきっとすぐ帰ってきちゃうよ。そしたら、明日白川おばさんが学校に送ってくれる約束、どうするの?」

小さな頭でしばらく考えた後、結城沙耶は腕時計の画面を消し、布団の中に潜り込んで小声で言った。

「じゃあ、やっぱりパパに寝かしつけてもらおう」

かくして結城時也は、ひとまず封筒を置くしかなかった。

二人の子供を寝かしつけた後、結城時也が部屋に戻ろうとすると、また一本の電話で会社に呼び戻され、結局一晩中帰ってこなかった。

その夜、藤堂詩織はあるアパートの前で車を降りた。

そこは、彼女が学生時代に住んでいた小さなアパートだった。

結城時也と結婚してから仕事をやめ、彼女名義の不動産もすべて結城時也が二人の子供のために買ったものだった。この結婚前のアパートだけが、唯一彼女自身の財産だった。

アパートは長年誰も掃除しておらず、床には実験報告書の束がいくつか積まれ、本棚の学術雑誌には埃が積もっている。藤堂詩織はしばらく簡単な掃除をしてから、今日まだ食事をしていないことを思い出した。

藤堂詩織はスマートフォンを取り出して出前でも頼もうとしたが、支払いの画面で、紐づけられた数枚の銀行カードが目に入った——。

一枚は、結城時也が定期的に振り込んでくる、二人の子供の学費用のカード。

もう一枚は、藤堂詩織への生活費として毎月三万円が振り込まれるカード。家事を切り盛りするためのものだが、藤堂詩織は一度も手をつけず、結婚前の自分の貯金を使っていた。

結城時也は金を振り込むだけで、金の流れを調べることはない。だから、彼はそのことを全く知らなかった。

その二枚のカードを無言で見つめ、藤堂詩織はふと自嘲気味に笑うと、両方のカードの紐づけを解除した。

どうせ、もう使うこともない。

食事を終え、簡単に身支度を整えると、藤堂詩織は部屋に戻って横になったが、眠れなかった。

そろそろ二人の子供に電話で寝かしつけをする時間だ。あの光景が頭の中で何度も再生され、彼女の手は二人の子供の電話番号の上で止まる。指先が少しの間ためらったが、やはり手を下ろした。

すると、一通のメッセージが届いた。

『最近、時間ある?』

見慣れているようで、どこか懐かしいアイコンを見て、藤堂詩織は思い出した。博士課程にいた頃の先輩だ。

優しく穏やかな人で、癌の分野を専門としていた。藤堂詩織が結婚して引退してからは、二人の間に連絡は一切なかった。

彼女が離婚を控えていることを知ると、先輩は一度戻ってこないかと誘ってくれた。来月、学術研究会があるという。

しかし藤堂詩織はためらった。一つは、怪我をした自分の手と、悪化する癌のため。

もう一つは、学術の世界から何年も離れていた自分が、本当に復帰してやっていけるのかという不安からだった。

彼女は承諾も拒絶もせず、数日考える時間がほしいとだけ伝えた。先輩は快く承諾してくれた。

藤堂詩織は疲労の中、深い眠りに落ちていった。

翌日の昼、藤堂詩織は弁護士とレストランで食事の約束をしていた。

そこは彼女が一番好きなレストランで、結婚前には結城時也と何度も来たことがある。暖かい黄色の光がテーブルの上に広がり、藤堂詩織は革張りのメニューを開いた。

佐藤弁護士は彼女の大学時代の友人で、彼女がこれまで歩んできた道を見守ってきただけに、このような結末になったことが不憫でならなかった。

「今の自分の病状がどんなか、分かってるの!」

藤堂詩織は苦笑して首を振り、佐藤弁護士のグラスに白ワインを少しだけ注いだ。

ワイングラスを通して屈折する光の影越しに、螺旋階段の向こうに見慣れた人影がいくつか目に入り、藤堂詩織のグラスを持つ手がふと止まった。

「どうしたの?」

「いえ、何でも……」

佐藤弁護士が彼女の視線を追うと、その眼差しが冷たくなった。

「こんなところで会うなんて、縁起でもないわね」

そこにいたのは、結城グループの見慣れた顔ぶれだった。どうやら祝勝会を開いているらしく、ウェイターがアイスバケツで冷やされた高級シャンパンを、湯水のように二階へ運んでいく。

一番奥に座る男はグラスを手に軽く揺らしている。その身にまとう雰囲気はどこかよそよそしく冷淡だが、彼の隣に座ることを許された一人の女性がいた。

「詩帆さん、おめでとうございます! 今回のプロジェクトが成功したのは、あなたのおかげです! 一杯どうぞ!」

白川詩帆は笑って謙遜する。

「すべて結城社長のご指導の賜物ですわ。私から結城社長に、一杯お注ぎさせてください」

彼女は恥じらうように結城時也に酒を注ぎ、結城時也は素っ気なくグラスを挙げて一口飲んだ。

囃し立てる声があちこちから上がる。

結城時也はもう覚えていないのかもしれない。ここが、二人がかつて出会ったレストランだということを。かつて友人に囲まれて囃し立てられた主役は、藤堂詩織から別の人に変わってしまっていた。

無言でワインを一口含むと、その苦さに藤堂詩織は眉をひそめた。

それを見た佐藤弁護士が、藤堂詩織を連れて帰ろうとする。

その時、ウェイターが派手な身なりの女性を連れてやってきて、心からの謝罪を口にした。

「申し訳ございません。こちらのお客様のオーナーが店を貸し切りにしたいとのことで、十倍の料金で補償させていただければと……」

藤堂詩織はすっかり気落ちし、立ち上がって帰ろうとしたが、ゆったりとした仕草で制された。

「どうしてあなたが?」

その女性は結城時也の秘書、杉浦くんだった。社内で藤堂詩織の素性を知る者は多くないが、彼女はその一人だ。

藤堂詩織がなぜここに?

まさか、結城社長がここで白川詩帆のために祝勝会を開くと聞いて、嫉妬して乗り込んできたとでも?

そう思うと、彼女は侮蔑的に笑った。

当初の補償と退去願いは、酸っぱい皮肉へと変わった。

「藤堂さん、あなたがここにいらっしゃるのは、少々場違いかと存じますが」

「どうやってここをお探しになったのかは存じませんが、結城社長からのご指示で、本日は白川秘書のために特別に開かれた祝勝会でございます。『誰かさん』にわざと邪魔をされないように、とのことですので、ご覧の通り……」

言葉の端々に棘がある。佐藤弁護士が怒って彼女に掴みかかろうとするのを、藤堂詩織が押しとどめた。

「その必要はないわ」

藤堂詩織はバッグを手に取って立ち上がると、佐藤弁護士を連れて店を出た。去り際に一言だけ残す。

「彼に、私が来たことは言わなくていいわ」

「佐藤弁護士、もし彼から返事がなければ、もう直接内容証明を送りましょう」

客の追い出しに少し時間がかかった。結城時也は酒席を抜け出して階下に下り、ついでに杉浦くんに進捗を尋ねた。

「杉浦くん、どうなった?」

「もうすぐ終わります。結城社長、ご安心ください」

「ん」

結城時也は素っ気なく答えると、「先に戻ってろ」と言った。

彼はポケットから煙草を取り出し、口に咥えたが火はつけなかった。

二人の子供が生まれてから、プライベートで煙草を吸うことはなくなっていた。

彼は目を細め、レストランの回転ドアの方を見つめる。そこには、ほっそりとした人影が微かに見えた気がした。

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