第3章
佐藤弁護士との食事を終えた後、藤堂詩織は車を運転してアパートに戻った。
部屋に入った途端、間の悪いことに電話が鳴り響いた。
相手は結城時也の妹、結城遥からだった。
「お義姉さん、A市に戻ってきたって聞きました。最近どうですか?」
藤堂詩織は、体の疲れが勝っているのか、それとも心の疲れが勝っているのか自分でもわからず、しばし黙り込んだ。「遥さん……久しぶり……私は大丈夫よ」
彼女は当面、自分の病気のことを結城家の人間には知られたくなかった。
電話の向こうの声には気遣いが滲んでいた。「お義姉さん……明後日が何の日か、覚えていますか?お爺様が、お義姉さんと兄さんに会いたいと名指しで」
毎年夏末の数日間は、結城の御隠居様の誕生日で、家族全員が出席しなければならない。
そもそも藤堂詩織と結城時也の結婚は、結城の御隠居様が独断で決めたものだった。
最近の出来事に立て続けに打ちのめされていた藤堂詩織は、結城遥に言われなければ、そのことをすっかり忘れるところだった。
「わかりました……」
結城遥は、藤堂詩織が結城家に嫁いでからというもの、彼女に良くしてくれた数少ない人物だ。
藤堂詩織は本当ならきっぱりと断りたかった。離婚すると決めたからには、結城時也はもちろん、結城家とはもう何の関係も持ちたくなかった。
しかし、御隠居様がそう言っている以上、彼女が「いやだ」と即答するのは難しかった。
ちょうど良い機会だ、もしかしたらあの時のことを切り出せるかもしれない。
藤堂詩織は横になって休もうとした。眠気に襲われ、うとうとしかけたその時、またしても電話が鳴った。
名前を確かめる間もなく、通話ボタンを押す。
「もしもし、ママ!」
結城沙耶の、舌足らずで甘えた声が聞こえた。
藤堂詩織の眠気は半分以上吹き飛んだ。少し黙ってから、淡々と応える。「どうしたの?」
「ママ、最近……」
結城沙耶が言い終わらないうちに、隣にいた結城和が彼女を軽く小突いたのが聞こえた。「お姉ちゃん……本題を言って……」
結城沙耶は唇を尖らせた。「ママ、今夜、私たちをお爺ちゃんのお家に迎えに来て、一緒にご飯食べられない?」
期待に満ちた彼女の小さな表情が目に浮かぶようだった。
以前の彼女なら、子供たちに言われるまでもなく、とっくに迎えに行っていたはずだ。
だが今は、そんな気にも、そんな気力もなかった。
あの日、二人の子供たちが白川詩帆の周りで楽しそうにはしゃいでいた光景を思い出すと、心臓がズキズキと痛んだ。
藤堂詩織は寝返りを打ち、布団に顔を埋めて目を覆った。声が低く嗄れる。「今夜はパパに迎えに来てもらいなさい。ママは今日、とても疲れているの」
人生で数少ない拒絶であり、そして母親からの初めての拒絶だったかもしれない。
結城沙耶の胸に、ふと切ない気持ちがこみ上げてきた。ママは今まで、いつも自分たちの言うことを聞いてくれていたのに。
彼女がなおも何か言おうとすると、結城和がスマートウォッチを奪い取り、向こう側に言った。「ママって本当に無責任だよね。白川詩帆おばさんなら、そんなことしないのに」
こう言えば絶対に彼女を怒らせることができる、そうすればきっと来てくれるはずだ。
結城和の非難に対し、藤堂詩織はただ軽く笑っただけだった。
半死半生の難産の末に産んだ双子が、他の誰かを母親にしたがっている。
「じゃあ、その人に迎えに来てもらいなさい」
そう言って、電話を切った。
藤堂詩織とて、この二人の子供を完全に愛せなくなったわけではない。しかし、かつては責任と心を尽くしたにもかかわらず、何一つ良い報いがなかった。だからもう、自分から追いかけるのはやめたのだ。
古風な結城家の旧宅が、迫りくる夜の色に沈んでいた。
藤堂詩織が車から降りると、掃き出し窓に張り付いている二つの小さな人影が見えた。
結城和は彼女を見ると、あっかんべーをして走り去った。
結城沙耶は駆け寄ってきて彼女に抱きつき、ふわふわした頭を見上げた。「ママ!」
藤堂詩織はただ軽く抱きしめ返すと、すぐに体を離した。
奥の部屋に入ると、空気がまるで絞り上げられたかのように張り詰めていた。
ソファの両脇には結城時也の兄と義姉が座っていた。男性の顔立ちは結城時也と三割ほど似ているが、より成熟して落ち着きがあり、藤堂詩織が来たのを見て立ち上がり、挨拶をした。
義姉は華やかで美しい装いをし、いささか敏腕な雰囲気を漂わせ、藤堂詩織が入ってきたのをわざと見ていないふりをしている。
彼女はかねてから「専業主婦」である藤堂詩織を快く思っていなかった。
「藤堂詩織、あなたは最近一体何をそんなに忙しくしているの。子供二人を旧宅に送ってくる時間さえないというの?」上座に座る結城の母は、冷淡な表情で、怒らずとも威厳があった。「あなたは母親なのだから、自分のやるべきことをやりなさい」
藤堂詩織は、結城の母が自分を牽制しているのだとわかった。
当時、結城の母が藤堂詩織と結城時也の結婚を認めた前提の一つが、藤堂詩織が自分のキャリアを完全に捨て、全身全霊で二人の子供の世話をすることだった。
その頃、海外のトップ医学院の研修プログラムから声がかかっていたが、彼女はそれを泣く泣く諦めて結城時也に嫁ぎ、医学院の研修枠は白川詩帆が代わりに手に入れた。
五年後、藤堂詩織は夫と子供の世話をする専業主婦となり、姑や小姑に疎まれ、夫からは冷たくされ、一方で白川詩帆は海外で箔をつけ、結城時也の秘書として鳴り物入りで帰国し、華々しい活躍を見せていた。
一念の差で、今では雲泥の差だ。
藤堂詩織は心の中で自嘲気味に笑った。
口を開いて何か説明しようとしたが、その必要もないと思い直した。「わかりました」
今日ここに来たのは結城の御隠居様に離婚の話を切り出すためだ。余計な説明は不要だった。
そして人のいない場所を探して腰を下ろし、夕食をとった。
結城の御隠居様は病気で臥床しており、今夜は正式な晩餐会ではなかったため、藤堂詩織は彼が顔を出すのを待つことはなかった。
空はすぐに真っ暗になり、結城時也は会社の仕事が多いため、深夜になってようやく到着した。
藤堂詩織が階下に降りた時、ちょうど入ってくる彼と鉢合わせた。
二人は視線を交わしたが、どちらも口を開かなかった。
結城時也は最近ずっと会社の仕事で忙しく、家で寝ることはほとんどなく、少し痩せたようだった。
藤堂詩織は素早く顔をそむけた。
ここで彼女が最も会いたくない人物こそ、結城時也だった。
結城時也は、ずっと彼女に冷淡だった。
彼女が離婚届を置いて家を出たというのに、今の結城時也は一言も尋ねることなく、彼女とすれ違い、追い越して結城家の家族と挨拶を交わしに行った。
藤堂詩織の心に、まるで大きな穴が開き、ひゅうひゅうと風が吹き込んでいるかのようだった。
結城遥はその一部始終を目にしており、藤堂詩織の手の甲をぽんぽんと叩いた。「まずはお休みになって、お義姉さん。夫婦のことは、夜にゆっくり話し合えばいいじゃないですか」
だが、藤堂詩織にはもう、結城時也に何かを説明する気力はなかった。
藤堂詩織はこれまで、彼の心を温めようと様々な手段を試みてきたが、すべて無駄だった。
彼女はもう、結城時也のために自身の体温のすべてを使い果たし、彼を暖める力は残っていなかった。
今日ここに来たのも、ただ離婚の話を切り出すためだった。
結城遥としばらく話した後、部屋に戻ると、結城時也が浴室で電話しているのが聞こえた。
低い声がガラス戸の向こうから、くぐもって掠れた響きで伝わってくる。「わかった。明日、付き合うよ」
彼女に対しては向けられたことのない、辛抱強い口調だった。
電話の相手が誰なのかは、考えるまでもない。
藤堂詩織は一度外の庭を散歩してから戻り、寝室のドアをノックした。
「今夜はあなたがここで寝て。私は書斎に行くから」
結城時也は携帯をしまい、瞼を上げて彼女を淡々と一瞥し、吐き捨てた。「その必要はない」
結城時也は彼女より一足先に部屋を出て、冷たく言った。「俺が書斎で寝る」
そう言って階下へ降りて行った。
彼女とはっきりと一線を画している。
彼が藤堂詩織に対して抱いているのは責任だけで、愛情はなかった。
かつての二人の、結城の旧宅での新婚の部屋を眺め、藤堂詩織は結局、真夜中に車を走らせて去った。
ここにいると、心がどうしようもなく息苦しくなる。
彼女は執事に、藤堂家で処理すべき用事があり、御隠居様の誕生日の夜には時間通りに出席すると告げると、執事も彼女を引き止めなかった。
翌朝早く、結城沙耶がとてとてと両親の部屋に走ってきたが、そこには誰もいなかった。
結城時也は明け方にまた電話で会社に呼び戻されていた。
彼女が藤堂詩織に会いたいと駄々をこねると、執事は、藤堂詩織は昨夜のうちに帰ったと告げた。
結城和も目を覚まし、その知らせを聞いて、わけもなく腹が立った。ママは最近どうしてこうも神出鬼没なんだろう。
執事に藤堂詩織の電話をかけてもらったが、誰も出なかった。
藤堂詩織は最近、寝るときは携帯をサイレントモードにしていた。
以前はあれこれと心配し、心はいつも二人の子供たちにあり、携帯が鳴るたびに熟睡できなかった。
手放してからは、かえってまとまった睡眠がとれるようになった。
二人の子供は仕方なく、まず結城時也の車で学校へ向かった。
でもママがいないなら、明日は白川おばさんに送ってもらえる。
そう思った途端、彼らの気分は一瞬で舞い上がった。







