第5章
宴会場の隅にあるグランドファーザー・クロックが七度鐘を鳴らし、晩餐の時刻を告げた。
藤堂詩織は車椅子を押してざわめく人波を抜け、結城の御隠居様の痩せた手が肘掛けに置かれている。
メインテーブルはすでに整えられ、銀糸で寿の字が刺繍されたテーブルクロスがクリスタルのシャンデリアの下で柔らかな光を放っていた。
結城時也と白川詩帆が肩を並べて歩いてくる。男の黒いスーツについた酒の染みはとっくに消え失せ、白川詩帆は結城和の手を引き、もう一方の手で時折、結城時也のネクタイを直している。その親密な様子は、まるで彼女こそが本妻であるかのようだ。
「曾おじい様!」
結城沙耶が小さな砲弾のように車椅子の前へ飛びつき、陶器のように整った小さな顔を上げた。
「まだお祝いの言葉がたくさんあるの!」
彼女は一つ咳払いをすると、舌足らずな声で諳んじ始めた。「曾おじい様が福は東海のごとく、寿は南山のごとくありますように。曾おじい様、毎日ご飯を二杯食べてね!」
結城和はすぐに負けじと寄り添った。「僕、家族の絵を描いたんだ! 曾おじい様を仙人みたいに描いたんだよ!」
御隠居様はそれを聞いて呵呵大笑し、皺の奥まで笑みを満たしながら、二人の子供の頭を撫でてはしきりに「良い子だ」と言った。
白川詩帆が頃合いを見計らって進み出て、手には煮込みの入った器を捧げ持っている。「おじい様、ご覧になってください。今のおじい様は本当に幸せ者ですね。沙耶ちゃんと和ちゃんはこんなに聞き分けが良くて、時也さんはあんなに有能で、本当に羨ましい限りですわ」
彼女の声は穏やかで優しく、その視線はテーブルいっぱいの子供や孫たちをなぞり、最後に藤堂詩織の上でわずかに止まった。「うちみたいに、いつもひっそりとしているのとは違いますね」
周りからすぐに同調の声が上がり、白川家と親しい数人の夫人が次々と頷いた。「詩帆さんのおっしゃる通りですわ。結城の御隠居様、これこそが本当の天倫の楽というものですね」
白川詩帆は微笑みを浮かべて席に着いた。アイボリーホワイトのドレスの裾が床を掃き、ほのかな梔子の香りを立てる。
彼女はふと何かを思い出したかのように、藤堂詩織へ気遣わしげな視線を向けた。「そういえば、先日藤堂さんのお母さんとお電話したのですが、詩織さんのことを懐かしんでいらっしゃいましたわ」
藤堂詩織は匙を握る手に力を込めた。
「藤堂さんのお母さんがおっしゃるには、去年の詩織ちゃんの誕生日に、長いこと選んだ翡翠の腕輪を送ったのに、また送り返されてきたそうなんです」
白川詩帆は軽くため息をつき、お茶を一口すすった。
「藤堂さんのお母さんが心を痛めているのは、私にもよく分かります。だって実の娘ですもの、気にかけていないわけがないでしょう」
白川詩帆は藤堂詩織を見た。「詩織さん、あなたと藤堂さんのお母さん、何か誤解があるのではないかしら?」
その言葉が落ちると、席は一瞬にして静まり返った。
藤堂詩織は目を伏せ、長い睫毛が目の下に影を落とした。
八歳の深秋、母は彼女の手を引いて白川家の屋敷の前に立っていた。継父の白川宏遠はリビングのソファに座り、まぶた一つ動かさなかった。
「入れろ。玄関で邪魔だ」
彼の声は氷の錐のように藤堂詩織の心に突き刺さった。
白川詩帆はピンクのプリンセスドレスを着て、継父の腕に抱きつきながら甘えていた。「パパ、どうしてこの子がうちに来るの?」
「詩帆、いい子だから。これからはこの子がお姉ちゃんになるんだよ」
母は媚びるように笑った。
それからの日々、白川詩帆は年長者の前ではいつも聞き分けの良い子を演じ、陰では藤堂詩織の教科書を花壇に捨てたり、彼女の牛乳にこっそり塩を入れたりした。
継父は常に実の娘を贔屓し、藤堂詩織が必死に勉強して学年一位を取っても、継父の認めを得られるどころか、「勉強ができたって何になる」という一言が返ってきただけだった。
彼女はあの家にも、その居候の息苦しさにもとっくにうんざりしており、結城時也と結婚してようやく完全に逃げ出すことができたのだ。
結婚後、彼女はすべての連絡先をブロックした。それが、あの過去との最も徹底的な決別だった。
「まあ、そんなことがあったのですか?」
隣の席の貴婦人がハンカチで口を覆いながらも、その視線は藤堂詩織の上をさまよっている。
「実の母親からの贈り物まで送り返すなんて、あまりにも親不孝じゃありませんか……」
ひそひそとした囁き声が蚊のように耳に入り込み、藤堂詩織の指の関節は力を入れすぎたせいで白くなっていた。グラスの表面には薄い汗の膜が張っている。
周囲から投げかけられる奇異な視線をはっきりと感じることができた。その視線には、侮蔑、憶測、そして他人の不幸を喜ぶ色が混じっていた。
反論の言葉が喉まで出かかったが、すぐに理性で押しとどめた。
今日は結城の御隠居様の誕生祝いの宴だ。もし彼女が公衆の面前で白川詩帆と事を構えれば、恥をかくのは結城家全体だ。
「コホン」
結城の御隠居様が不意に咳払いをした。その老いた声には、有無を言わせぬ威厳が宿っていた。「食事にしよう。料理が冷めてしまう」
彼は取り箸で長寿麺を一切れつまんだ。「今日はめでたい日だ。そんな興醒めな話はよせ」
その言葉が落ちると、席の囁き声はぴたりと止んだ。
人々は次々と杯を掲げた。「そうです、そうです。御隠居様の福寿安康を祝して!」
「乾杯!」
クリスタルグラスがぶつかり合い、澄んだ音を立てる。雰囲気は再び活気を取り戻し、まるで先ほどの出来事などなかったかのようだった。
藤堂詩織は黙って白湯を飲んだ。名士たちのお世辞の声に、頭がぼうっとする。
宴も半ばを過ぎた頃、藤堂詩織は化粧室へ行くという名目で席を立った。
彼女は彫刻の施された手すりに寄りかかった。指先は冷たく、スマートフォンの画面が光り、先輩から送られてきた学会の日程表といくつかの資料が表示されている。
『シンポジウムまでまだ時間がある。君がいないこの数年で、学術界の世代交代はものすごく速い』
『これは最新の研究成果と論文だ。君がじっくり研究するのに十分な量だよ』
彼女が返信しようとしたちょうどその時、背後からハイヒールが床を叩く音が聞こえた。
「お姉様、こっそりお逃げになるつもり?」
白川詩帆が化粧室の入り口に寄りかかり、赤い唇に嘲りの笑みを浮かべている。「それもそうね。こういう場は、あなたには確かに辛いわよね」
藤堂詩織は相手にするのも億劫で、背を向けて立ち去ろうとした。
「まあ、急いで行かないでよ」
白川詩帆は一歩前に出て彼女を遮り、バッグから真紅の口紅を取り出して化粧を直し始めた。声は低いが、一言一言がはっきりしている。「あの人たちの相手に忙しくて、お祖母様のことはとっくにお構いなしだったんじゃないかしら?」
白川詩帆は口紅をしまい、鮮やかな真紅が彼女の気勢をさらに強めた。「さっき病院から電話があったの。お祖母様の喘息がまた出たって。聞くところによると……今回はかなり重いらしいわ」
彼女はわざと間を置き、藤堂詩織の急にこわばった横顔を見て、ますます得意げに笑った。
「それにしても不思議よね。お姉様は医学部卒じゃなかったかしら? どうしてご自分の実のお祖母様さえ治せないのかしら? まさか、あの卒業証書は全部ごまかして手に入れたものだったりして?」
「それとも……この数年、あの子たちの世話に忙しくて、本業の腕はとっくに錆びついちゃったとか?」
藤堂詩織は静かに目を上げた。その瞳の奥には、読み取れない感情が揺らめいている。「私のことまで、あなたに口出しされる筋合いはないわ」
「ただ、残念に思っただけよ」
白川詩帆はわざとらしく残念そうにため息をついた。
「お年寄りが病床に伏しているなんて可哀想に。孫娘は顔さえ見せようとしない。でも、それもそうね。時也さんはあなたのことを好いてはいないけれど、お姉様は世間的にはれっきとした結城奥様だもの。貧しい親戚のことなんて、もう覚えていらっしゃらないわよね」
「入院費は期日通りに振り込むわ」
藤堂詩織は拳を握りしめ、爪が深く掌に食い込んだ。結城奥様という立場には、もうとっくに飽き飽きしていた。
「他のことについては、白川さんにご心配いただくには及ばないわ」
そう言って、彼女は白川詩帆を回り込み、まっすぐに廊下の突き当たりへと向かった。
心の中はどこか茫然とし、またどこか悲しかった。この愛のない結婚は、一体いつまで続くのだろうか?







