第6章

退屈な宴会がようやく終わりを告げたが、藤堂詩織の緊張は解けなかった。

結城家の慣例によれば、宴会の後には家でささやかな家族の集いが開かれる。

今回もまた、同じだった。

結城家。クリスタルのシャンデリアの光が長いテーブルに降り注ぐ。使用人が切り分けた最後のムースケーキを置いた途端、結城の母は銀のフォークでその小さな一切れをそっと刺し、唇に運びながらも、その視線は藤堂詩織に注がれていた。

「詩織ちゃん」

彼女がフォークを置くと、カチャンと澄んだ音が響く。その声には、見せかけだけの気遣いが含まれていた。「今日はずいぶん顔色が悪いようだけれど、どこか具合でも悪いの?」

藤堂詩織はグラスを握る指先に、微かに力を込めた。

結城の母が本気で心配しているわけではないこと、そして自分も癌のことをこんな形で公にする必要はないことを、彼女は分かっていた。

「大丈夫です。少し疲れただけですから」

彼女は小声で応じ、テーブルクロスの精緻なレース模様に視線を落とすことで、相手の目から逃れた。

「疲れていても、体面を欠いてはだめよ」

結城の母はくすりと笑い、その語尾を長く引いた。それは注意のようでもあり、忠告のようでもあった。

「あなたは時也の妻で、結城家の若奥様なの。どれだけの視線があなたに向けられていると思っているの」

「宴会で、白川さんが少し余計なことを言ったくらいで、あなたは俯いて不機嫌な顔をして。まるで器が小さいみたいに。これが外に漏れたら、まるで私たち結城家があなたを虐げて、どれほど辛い思いをさせているかのように思われるじゃない」

彼女が話している間、その目尻は結城の御隠居様の隣に座る結城時也を、それとなく捉えていた。

男は俯いてスマートフォンを操作しており、時折その目元から優しさが漏れているものの、食卓での会話には一切関心がない。まるで周囲のすべてが自分とは無関係であるかのように。

「あなたたちは夫婦なのよ。一蓮托生という言葉の意味は、私がわざわざ言うまでもないでしょう?」

結城の母の声が不意に少し高くなり、結城時也にもはっきりと聞こえるようにされた。

「沙耶ちゃんと和ちゃんのためにも、ちゃんと関係を維持しなさい。外聞を悪くするようなことはしないで」

藤堂詩織はデザートスプーンを固く握りしめた。柄の部分が肌に食い込み、鋭い痛みが走る。

彼女が顔を上げると、結城の母からのプレッシャーを孕んだ視線と真正面からぶつかった。

「お母様の仰る通りですわ」

義姉さんがすぐに口を挟む。彼女はウェットティッシュで手を拭きながら、有無を言わせぬ確信に満ちた口調で言った。

「親たるもの、一挙手一投足が子供たちの手本になるのですもの。今日の宴会でも、沙耶ちゃんと和ちゃんは白川さんにとても懐いていましたわね」

白川詩帆の名前が出たことで、結城時也の視線が初めてスマートフォンから僅かに離れた。

藤堂詩織の心臓は、まるで細い針でびっしりと刺されているかのようだ。彼女は子供用の椅子に座る二人の子供に目を向けた。

結城沙耶は銀のカトラリーをいじっており、結城和は苺を頬張り、その小さな顔は無邪気さに満ちている。

「沙耶ちゃん」

義姉さんが突然声を張り上げ、顔には優しい笑みを浮かべた。「今日はどうしてずっと白川おばさんにべったりだったのかしら。白川おばさんに迷惑だと思われちゃうわよ」

結城沙耶の目が輝いた。「白川おばさんはそんなことないもん。白川おばさん、すごくいい人だもん。今度、遊園地に連れてってくれるって言ってた!」

「じゃあ、ママと白川おばさん、どっちが好き?」林真奈美の声は蜜をまとっているようで、それでいて毒を孕んでいた。

藤odo詩織の呼吸が、にわかに詰まる。止めたいと思ったが、子供はそこまで深く考えていなかった。

結城和が我先にと口を開く。「白川おばさんはお話してくれるし、外に遊びに連れてってくれるけど、ママはずっと勉強しろって言う……」

その言葉は一本の鈍刀のように、藤堂詩織のとうに瘡蓋になっていた傷口をゆっくりと切り裂いた。

彼女は毎日終わりのない家事をこなし、二人の子供の成長のために自作の絵本まで作り、良き結城家の奥様であり、良き母親であろうと努めてきた。しかし、子供たちの目にはそんな風に映っていたのだ。

一方、白川詩帆は目新しいおもちゃと甘い言葉だけで、いとも簡単に子供たちの心を手に入れてしまう。

「ご覧なさい」

林真奈美は得意げに藤堂詩織を見つめ、その声色からは人の不幸を喜ぶ感情が溢れ出さんばかりだった。

「子供は嘘をつきませんわ。詩織ちゃん、あなたは一心に子供たちに精力を注いでいると言うけれど、キャリアを持つ白川詩帆さん一人に敵わないなんて。一体その心思は誰のために費やされているのかしらね」

義姉さんは元々、自分の仕事を持たない藤堂詩織を好ましく思っていなかった。今、彼女の欠点を見つけたからには、当然のことながら徹底的に非難するつもりだった。

結城の母が 옆から相槌を打つ。「家和して万事成る、よ。あなたが手本を示せなければ、時也が苛立つだけでなく、子供たちにも影響が出る。そうなればまた、外から私たち結城家が笑いものにされるわ」

「私、拗ねてなんかいません」

藤堂詩織はついに顔を上げ、声は小さいながらも一筋の強情さを帯びていた。「私はただ……」

「もういい、それ以上言うな」

長らく口を閉ざしていた結城時也が、ようやくスマートフォンをしまって口を開いた。「今日は家族の集まりだ。こんな煩わしいことでお爺様の興を削ぐのはやめにしよう」

藤堂詩織は口を噤み、それ以上何も言わず、ただ冷淡な表情の結城時也を見つめた。

これ以上何を言っても無駄だと彼女は悟っていた。この人たちの目には、自分のどんな弁解も、物分かりの悪い振る舞いとしか映らないのだ。

どうにか会食が終わるまで耐え抜き、藤堂詩織はまるで逃げるかのようにダイニングを後にした。

螺旋階段を伝って玄関まで下り、ドアノブに指が触れた瞬間、彼女の視線は二階の書斎へと向かった。

離婚のことは、もう先延ばしにはできない。他の誰かにじわじわと気づかれるより、いっそ早くお爺様に打ち明けた方がいい。

彼女は深く息を吸い込み、そっと書斎のドアを押した。

結城の御隠居様は太師椅子に腰掛け、手には新聞を持っていたが、ページをめくる様子はなかった。

「おお、来たか。まあ、座りなさい」

藤odo詩織は、結城の御隠居様の濁った瞳の奥に、見過ごしてしまいそうなほどの疲労の色がよぎるのを見た。

「お爺様」

藤odo詩織は書斎机の前まで歩み寄り、緊張で指を絡ませた。言葉をまとめる間もなく、お爺様がゆっくりと口を開くのが聞こえた。

「今日の宴会の件、辛い思いをさせたな」

その声は少し掠れており、老人特有の緩慢さを帯びていた。

「外ではどれだけの目が結城家を窺っていることか。ほんの些細な動きひとつで、奴らはそれを嵐へと仕立て上げる」

藤堂詩織の心がずしりと沈み、次に何を言われるかを予感した。

「時也はここのところ、ストレスが大きい。会社も穏やかではないし、わしのこの体も……」

結城の御隠居様は極めてゆっくりとお茶を一口飲んだ。「外の豺狼虎豹も、我々結城家の失態を待ち望んでおる」

「こういう時だからこそ、お前たち夫婦がしっかりとせねばならん。お前たちが穩やかであれば、結城家は穩やかでいられる。会社も穩やかでいられるのだ」

藤堂詩織は口を開きかけたが、心の中で幾度となく繰り返した「離婚」という言葉が喉に詰まり、どうしても口に出すことができなかった。

「お前の心に千々の辛酸があり、あの時、時也がお前を助けなかったことに不満があるのは分かっておる」

お爺様の視線が彼女の上に注がれた。「だが、結城家のため、時也のため、そして二人の子供たちのためだ。たとえ芝居であろうとも、仲睦まじい夫婦のふりをせねばならん。この難局を乗り越えさえすれば、すべては良くなる」

「良くなる」という三文字が、重い槌のように藤堂詩織の心に打ち付けられた。

結婚してから今までの七年間、彼女の難局は次から次へと現れ、終わりが見えることはなかった。

彼女の幸福も、彼女の感情も、結城家の利益の前では、いつでも犠牲にできるものだったのだ。

彼女はもう何も言わず、ただ身を翻して書斎を退出した。

ドアを閉めた瞬間、背後からお爺様の抑えられた咳の音が聞こえた。

廊下の灯りは薄暗く、彼女の影を長く引き伸ばしていた。

ポケットの中のスマートフォンが不意に震え出す。取り出して見ると、画面には一本のショートメッセージがポップアップしていた。病院からの再検査のリマインダーだった。【藤堂様、再検査の時期となりました。お早めにご来院ください。】

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