第8章

アパートに着くと、それまで晴れていた空がどんよりと曇ってきた。

藤堂詩織は鞄を置くと書斎机に向かい、年季の入ったノートパソコンを開いた。

デスクトップには、様々な子供向けの絵本やレシピの他に、以前先輩から送られてきた文献資料のフォルダが一つあった。

マウスでフォルダをダブルクリックすると、びっしりと並んだ文献資料が瞬く間に画面を埋め尽くす。

藤堂詩織の指先はタッチパッドの上で宙をさまよい、なかなか下ろすことができなかった。

七年。彼女が学術界を離れてから、丸七年が経っていた。この七年間、彼女の世界にあったのは日々の炊事洗濯と結城時也、そして子供たちのことだけで、外の世界はとっくに天と...

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