第4章

月曜日の朝、箱根温泉郷。どこまでも続く山々の稜線に、黄金色の陽光が降り注いでいる。最高級スイートのバルコニーからは、朝靄がおとぎ話の背景のように谷間をゆっくりと流れていくのが見えた。

大輔は、私が一番好きだと話したことのあるドン・ペリニヨンを朝食に用意し、檜の露天風呂には薔薇の花びらを浮かべてくれていた。すべてが完璧。まるで周到に演出された、最後の舞台のようだった。

「聖奈、こんなふたりきりの時間、久しぶりだね」

彼は、背後から私を優しく抱きしめる。

「明日の手術が終われば、すべてが変わるんだ」

彼の胸に寄りかかりながら、私の心は氷のように冷え切っていた。

「ええ、すべて...

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