第2章

 愛莉視点

 眠れなかった。

 透哉が寝室から出てきて、キッチンでミルクを温めている。本来なら、それは私の役目だったはずだ。何事もなかったかのように振る舞うこと。一時間前に、彼が私の人生のすべてを木っ端微塵にしたなんて、まるで嘘みたいに。

 「透哉。理由が知りたい」ソファに座って長いこと考えていたけれど、やっぱり聞かずにはいられなかった。

 彼は振り返らない。「何の理由だ?」

 「どうして本当のことを教えてくれなかったの。どうして五年も私の心を弄んだの。そんなに私のことが憎いなら、どうしてそう言ってくれなかったの?」

 やかんがピーピーと音を立て始めた。彼は火を止めたが、答えはなかった。

 「透哉、お願い。私、もうおかしくなりそう」

 ようやく彼が振り返った。その瞳には、純粋な憎しみが宿っていた。

 「教える、だって?」彼は笑ったが、その声は壊れていた。「お前に知る資格があると思ってるのか?」

 「私――」

 「理由が知りたいか、愛莉?」彼は一歩近づいてくる。その手が震えているのが見えた。「どうして俺が、ただ『教える』なんてできなかったか、知りたいんだろう?」

 全身が逃げろと叫んでいるのに、私は頷いた。

 「お前が、俺の両親を殺したからだ」

 腹を殴られたような衝撃だった。「え? それは、どういうつもり?」

 「五年前の、十二月二十四日。記憶がある?」彼の声が大きくなる。「あれは、俺の人生で最悪の夜だ」

 頭がぐらぐらした。十二月二十四日。どうして思い出せないんだろう。そこにあるはずの記憶が、ぽっかりと抜け落ちていた。

 「私……あの夜のことは、覚えてない」

 「だろうな」彼は部屋を行ったり来たりし始めた。髪を手でかきむしっている。「お前は都合の悪いことなんて、決して覚えてないもんな? 全部忘れて、何事もなかったかのように前に進む」

 「透哉、お願い、私本当に――」

 「あんたを探しに行ったんだよ!」彼が怒鳴り、私は飛びのいた。「あんたが悲劇のヒロインごっこをしたせいで、あんな猛吹雪の中を!」

 「ヒロインごっこって? 何の話をしてるの?」

 暖炉の火に照らされた透哉の顔は、狂気に満ちて見えた。怒りと苦痛で、ぐちゃぐちゃに歪んでいる。

 「置き手紙が残されていた」彼の声は、静かで恐ろしいものに変わった。「『一人になりたい』『考えたい』だのと言って、ここ何年もなかったような最悪の嵐の中に飛び出していったんだ」

 両手で頭を押さえる。お願い、愛莉。何か思い出して。でも、そこには何もなかった。ただ、空っぽなだけ。

 「俺の両親はパニックになった。母さんは泣きながら、あんな天気の中を行かないでって父さんに懇願した。でも父さんが何て言ったか分かるか?」彼は歩き回るのをやめ、私をまっすぐに見据えた。「『愛莉は家族だ。家族を見捨てるわけにはいかない』ってな」

 嘘。そんなの、現実のはずがない。

 「二人は真夜中に車を出した。真夜中だぞ、愛莉。道路はスケートリンクみたいになってて、視界もゼロだった。二時間もあんたを探して走り回ったんだ」

 私の足から力が抜けた。ソファに崩れ落ちると、全身の震えが止まらなくなった。

 「警察の話じゃ、環状八号線でブラックアイスに乗り上げたらしい。車は三回転して、ガードレールに激突した」彼の声が震えた。「救急車が着く前に、二人とも即死だったそうだ」

 「うそ……」私は囁いた。「私が……そんなことするはずない。私、おばさんとおじさんのこと、大好きだったもの」

 「大好きだった?」透哉が笑う。今まで聞いた中で、一番ひどい音だった。「本当にそうなら、なんで逃げ出した? なんであの馬鹿げた置き手紙を残したんだ?」

 「置き手紙って何? そんなの覚えてない!」

 「警察署にまだあるぞ、愛莉。どっかの箱の中に眠ってる。読み上げてやろうか?」彼はスマホを掴んだ。「ここに警察の調書があるからな。百万回は読んだ」

 息ができなかった。世界がぐるぐる回る。

 「『少し考える時間が欲しい。整理がついたら戻る。心配しないで』」彼はスマホから顔を上げた。「お前がそう書いたんだ。お前自身の字でな」

 こんなの嘘。こんなこと、起こるはずがない。

 「で、何が一番イカれてるか分かるか?」透哉は私の向かいに腰を下ろし、私を睨みつけた。「翌朝、お前が街中を馬鹿みたいにうろついてるところを発見された時、お前は家を出たことも、手紙のことも、何もかも覚えてないって言ったんだ」

 「本当に覚えてなかったのかも――」

 「ふざけるな!」彼はコーヒーテーブルに拳を叩きつけた。「自分がしたことに向き合えなかっただけだろ! だから被害者ぶったんだ。都合のいい記憶喪失にかかった、哀れな愛莉ちゃんってわけだ」

 私はもう泣いていた。体中が震えるほど、みっともなくしゃくりあげていた。「ごめんなさい。本当にごめんなさい。もし本当に私がそんなことを――」

 「もし?」透哉が勢いよく立ち上がったせいで、椅子が倒れた。「『もし』じゃないんだよ、愛莉。お前のせいで死んだんだ。俺に残された、たった一人の家族が」

 どうやって自分の部屋に戻ったのか覚えていない。気づけば午前一時、ベッドに座って、まるで自分のものではないかのように自分の両手を見つめていた。

 本当に私が? 本当に、あの夜、私は家を出たの?

 私はベッドの下から箱を片っ端から引きずり出し、何か思い出せるものはないかと探し始めた。古い写真、日記、五年前のものなら何でもよかった。

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