第169章

南条以勇の視線が安定しているとき、そこには一片の邪気もなく、まるで精霊王のようだった。

桜はようやく、自分が南条以勇の腕の中にいることに気づいた。どうりで違和感があったわけだ。

「その人は司様じゃない!」誰かが気づいた。

司じゃない?

桜は驚き、すぐに耳元で波の音とは異なる水の音を聞いた。

海面から浮かび上がった男はまだ息を切らしていた。銀色の仮面がクルーズ船のネオンの下で冷たい光を放ち、その目の光は仮面よりも恐ろしかった。

もう一艘の救命ボートが藤原司に向かって漕いでいくが、藤原司はそれを無視して、まっすぐに佐藤桜に向かって泳いできた。

誰の助けも借りず、腕を船縁にかけて力を...

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