第87章

「君、見かけない顔だね。普段は本館にいないの?いつ仕事が終わるの?終わる前にお菓子を作ってあげるよ。和菓子でも洋菓子でも、君の好きなものを教えて?」

メイドは一瞬手が震えそうになり、頭を下げたまま顔を上げなかった。「お嬢様、そんなお気遣いは無用です。本当に大丈夫ですから!」

薬を塗り終えると、使用人は慌てて部屋を退出した。

再び静寂が戻った。

桜は少しぼんやりして、藤原司のことを考えていた。

何度も助けられて、また藤原司に借りができたような気がする。

客観的に見れば、彼の気まぐれな性格を除けば、実家での冷酷な一面を見なければ、彼は実に素晴らしい人だ。完璧な容姿、優れた気質、卓越し...

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