第2章

 翌朝、目が覚めた瞬間から胸が重かった。ろくに眠れなかったが、午前七時には無理やり体を起こした。和也はもうキッチンにいて、ブラックコーヒーをちびちびと飲みながらスマホをいじっていた。

 私がさくらのお弁当を詰めている間、彼女は大理石のカウンターに座っていた。今日は何もかもが鋭く感じられた。脆く、張り詰めている。

 視界の隅で和也を窺う。画面の上を指が素早く滑っていたが、ある特定の連絡先の上で何度も動きを止めていた。

「朝から仕事?お疲れさま」何気ないふうを装って声をかけた。

「時差だよ」彼は顔も上げずに言った。「いつものことだろ」

 嘘だ。和也の仕事のパターンなんて、嫌というほど見てきたから分かる。

 彼のスマホが鳴り、彼が背を向ける前にその名前が目に入った。美咲。

「ちょっと出てくる」彼はバルコニーへ向かう。その声は、私だけのものだと思っていた甘い響きに、すでに変わっていた。

 さくらは何も気づかずにトーストをかじった。「パパね、毎朝ママとお話ししてるよ」

 私は平静を装って尋ねた。「そうなの?」

「うん。特別な声でね」さくらはぶらぶらと足を揺らしながら、考え深げに言った。「あ、そうだ。この間の夜、私が怖い夢見たか聞いたでしょ? あの時うるさかったの、パパだよ。『ミサキ』って、何度も何度も言ってた」

 胸の痛みが一層深くなる。どうりで私が落ち着いて眠れなかったわけだ。

 ガラス越しに、和也がこちらをハッと振り返った。視線が絡み、彼の顔に罪悪感がよぎるのが見えた。

 彼は電話を切って中へ戻ってきた。「今夜は遅くなる。片付けなきゃいけないことがあって」

 私は頷き、無理に笑顔を作った。「うん、わかった」

 彼がエレベーターに消えていくと、いつもの痛みが胸に広がった。また、何でもないふりをする一日が始まる。

 秋の中央公園はとてもきれいだったけれど、私の目にはほとんど入らなかった。さくらがブランコを漕ぐ間、私はその後ろに立ち、物思いに沈んでいた。

 周りには本当の家族たちの笑い声が響いている。

「絵里」さくらが不意に言った。「昨日の夜、ママから電話があったの。あなたのこと、聞かれたよ」

 次に背中を押そうとした私の手が、一瞬止まった。「そう……」

「ママがね、『絵里は優しい?さくらは幸せ?』って聞いてきたの」さくらは体をひねって私を見上げた。和也と同じ色の、真剣な瞳だった。「私、言ったんだよ。絵里は本当のママみたいだって。私を好きで、パパが絵里を好きだから、私たちは家族だって」

 私が押すのをやめたので、ブランコはゆっくりと揺れを小さくしていく。「さくら……」

「家族ってそういうものでしょ? お互いを好きで、一緒に住んでる人たちのこと」

 そんなに単純なものじゃないんだよ、と教えてあげたかった。愛なんて、本当はぐちゃぐちゃで不公平なのに。傷を隠すための絆創膏みたいになることもあるのに。

 代わりに私は言った。「ねえ、私はあなたの家庭教師なのよ、分かってる?」

 彼女の顔が曇った。「でも、一緒に住んでる。それにパパ、私が見てないと思ってる時に、あなたの手を握ってる」

 この子は、一体どこまで見ていたんだろう?

「大人の世界は、ぐちゃぐちゃなんだよ」

「でも、大事に思うことは、愛なんでしょ?」

 子供の言葉は、時として真実を突く。

 午後は、ずっと自分自身と格闘していた。部屋に閉じこもって、傷ついた猫のように傷を舐めていたいと思う自分がいる。でも、もう一人の――がむしゃらに戦って今の自分を手に入れた自分が――このまま黙って引き下がることを拒んでいた。

 今日は和也の誕生日。どうせ美咲に彼を奪われるのなら、せめて自分が何を捨て去ろうとしているのか、彼に直視させてやろう。

 午後七時までに、私はダイニングルームを魔法のような空間に変えた。キャンドル、ワイン、彼の大好きなティラミス。そして、ブルーのドレスに着替えた。彼が「ウイスキーみたいな瞳だ」と褒めてくれた、思い出のドレス。

 これが最後のチャンス。私たち二人の間に、本物の何かが残っているのかを確かめる、最後のテスト。

 もう一度、鏡の中の自分を確認する。肌の下で神経が跳ねていた。彼のために買ったヴィンテージの腕時計――骨董市で見つけた一九六〇年代のオメガ――が、薄紙に包まれて出番を待っている。

 七時半にエレベーターの到着音が鳴り、私はドレスのしわを伸ばした。心臓が激しく打ち鳴らされる。

 中に入ってきた和也は、この場所以外ならどこへでも行きたい、とでも言いたげな顔をしていた。ネクタイはすでに緩められ、キャンドルにも、ワインにも、私が注いだすべての努力にも、ろくに目を向けなかった。

「お誕生日おめでとう」私は言葉に温かみを込めようと努めた。

 彼の視線は、苛立ちを隠さずに部屋を見渡した。「絵里、これは一体何なんだ?」

「お祝いしたかったの。誕生日だから」

「そんなことしなくていいのに……」彼はすでにスマホを取り出し、メッセージを確認している。「なあ、気持ちはありがたいけど......」

「和也」私は一歩近づき、彼腕に手を置いた。「誕生日なのよ。ただ夕食を食べて、話ができない?」

 その時、彼は私を本当に見た。そして、彼の顔に冷たい何かがよぎるのを私は見逃さなかった。「何について?」

 その問いかけが、私たちの間に重く横たわった。私たちについて。美咲について。都合のいいセックスと子守り以外に、私があなたにとってどういう存在なのかについて。

 代わりに私は言った。「私たちについて」

「絵里」彼の声が、拒絶の前に見せるあの慎重な優しさを帯びた。「この話はしたはずだ。今の関係はうまくいってる。それを壊さないでくれ」

「壊す?」意図したよりも鋭い言葉が出た。「誰かを大切に思うことが、あなたにとっては避けるべきことなの? 面倒なこと?」

「俺たちには取り決めがある」

「ふざけないで!私はあなたの契約相手じゃない!」言葉が、私の中から爆発した。「あなたが契約してるサービスじゃないの、和也。人間なのよ。感情があるの」

 彼の顎がこわばった。「俺がどこまでできるか、最初から話してたはずだろ」

「最高のセックスと素敵なアパート?」私は笑ったが、その声は壊れていた。「なんて寛大なことでしょうね」

「絵里......」

「いいえ」私は一歩下がり、私たちの間に距離を作った。「もういいわ。全部忘れて」

 私は震える手でキャンドルの火を吹き消し始めた。あんなに一生懸命作り上げたロマンチックな雰囲気は、今では哀れで、必死に見えた。

「絵里、やめろ」彼の手が私の手首を掴んだ。「考えすぎだ」

「そうかしら?」私は彼に向き直った。「一つ教えて、和也。先週、L市に行った時、美咲に私のこと話した?」

 彼の沈黙が、答えだった。

「そうよね。だって私は、あなたの本当の人生には存在しないもの。たまたまあなたのベッドで寝てるだけの、お手伝いさんだものね」

「そんなことは......」

「嘘でしょ?だったら教えてよ。私って、あなたにとって何なの?

契約相手?便利な女?それとも...」

 彼は長い間私を見つめ、そして彼が答えを選んだまさにその瞬間を、私は見た。「君はさくらの家庭教師だ」彼は静かに言った。「そして、とてもいい仕事をしている」

 言葉が胸に突き刺さった。

ゆっくりとうなずく。もう何も言えなかった。

「分かったわ。よく伝わった」

 彼を通り過ぎて自分の部屋に向かおうとしたが、ドアの前で彼の声が私を引き止めた。

「絵里、これ以上ことを難しくしないでくれ」

 私は振り返らなかった。「ご心配なく、藤原さん」

 自分の部屋に逃げ込んだものの、眠れるはずもなかった。午後十一時四十五分、私は天井を見つめながら横たわり、薄い壁越しに聞こえる和也のくぐもった声に耳を澄ませていた。

 彼はまた電話をしていた。彼女と。

「美咲、これが難しいことだって分かってる……でも、さくらには俺たち二人が必要なんだ」

 私は壁に耳を押し付けた。そんな自分が嫌だったが、やめられなかった。

「先週君が言ってたこと、考えてたんだ……もう一度やり直すってこと」

 私の心臓が止まった。

「君の準備ができるまで待てる。俺たちには歴史があるし、さくらもいる……こういうことは重要なんだ」

 歴史。私が彼に決して与えられないもの。共有された過去、正当な権利、社会的に認められたラブストーリー。

 私は、彼らの物語における、ただの中断に過ぎなかった。

「俺たちが持っていたものが恋しい」彼は続けた。私に対しては聞いたこともないような感情のこもった声で。「俺たちはただ、うまくいかない時期を過ごしていただけだったのかもしれない」

 会話は続いたが、もう聞くだけで十分だった。私は横向きになり、枕を頭にかぶせて泣き声を押し殺した。

 馬鹿だった、この1年半。彼にとって自分が本当に大切な存在なのだと思っていた十八ヶ月。

 午前十二時半、聞き慣れた足音が私のドアの外で止まった。いつも私の鼓動を速めた、あの静かなノック。

「絵里? 起きてるんだろ」

 私は目を固く閉じた。「今夜は気分が良くないの」

「ドアを開けて。お願い」

「ただ休みたいだけ」

 一瞬の間があった後、彼の声が鋭くなった。「子供じみた真似はやめろ」

 その非難は胸に刺さったが、私は動かなかった。「本当に寝なくちゃいけないの」

「絵里」あの危険な響きが声に混じり始めた――物事が彼の思い通りに進まない時に使う口調だ。「ここで何かゲームをしてるんじゃないだろうな」

 ゲーム。まるで、私たちの間のすべてが戦略と操作であるかのように。

「ゲームじゃないわ。ただ疲れてるだけ」

 彼の足音が遠ざかっていく。ドア越しに苛立ちが伝わってきた。

 いい。誰かが自動的に「はい」と言わないことがどんな気分か、彼に思い知らせてやればいい。

 翌朝、彼のメモがキッチンのカウンターに置いてあった。「日曜日に戻る。さくらのスケジュールは通常通りに......」

 説明はない。温かみもない。ただの指示。

 私はその紙をくしゃくしゃに丸め、決心した。

 ここを出て行く時だ。

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