第83章

藤原サラ POV

社長室を出た私は、足早に誰もいない廊下を抜け、階段室へと駆け込んだ。

大きく息を吸うと、胸に痛みが走る。私はきつく襟元を掴んだ。そうすれば、もっと多くの酸素を吸い込めるような気がして。

さっきのあの人は、本当に私の知っている春なのだろうか。いつも私に優しくて、私のことを一番理解してくれていた、あの春?

そうか、彼は私のことを理解していなかったし、私も彼のことを理解していなかったんだ。

以前の紳士的な姿も彼で、今の凶暴な姿も彼。彼のもう一つの顔。彼は商人だけど、麻薬を取引する商人。彼は危険に飛び込んで私を救ってくれる英雄だけど、人を殺す殺し屋でもある。

私はゆっく...

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