第196話兄の婚約者を傷つけてしまった

ライラ視点

私は反射的に娘の耳を塞ぎ、髪に口づけながら抱き寄せた。

「シーッ、大丈夫よ、ベイビー。大丈夫だから」

心臓が早鐘を打つ中、私は音のした方へと視線を向けた。

目の前の光景に、全身の血が凍りついた。

ソフィアが戸口に立っていた――正確には、ドア枠にもたれかかるように崩れ落ちていた。足元には砕け散った花瓶。飛び散ったガラス片で切ったのか、彼女の腕を血が伝い落ちている。

彼女は片手で傷口を押さえていたが、私の息を呑ませたのはその瞳だった。大きく見開かれ、涙を湛えた瞳が、真っ直ぐに私を見つめている。その眼差しに浮かぶ裏切りの色は、疑いようもなかった。

さらに悪いことに、彼女の隣...

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