第6章 若様と野良猫

私は畳の縁を踏まないように気をつけながら、おずおずと正座した。

斉藤さんのお母さんが、桜の花びらを模した、表面に金粉まで散らされた美しい練り切りを運んできてくれた。

「召し上がれ。うちの樹は、甘すぎるって言ってあまり食べないのよ」

一つ手に取り、小さく口に含む。もちもちとした優しい食感と、上品な甘さが口の中に広がった。

「樹ったら、英語以外はもう壊滅的でね」

お母さんが唐突に言った。

「特に数学なんて、目も当てられないのよ」

「母さん!」

斉藤さんが抗議の声を上げる。

「得意科目と苦手科目の差が激しいだけだって」

「それを世間では、単に頭が悪いって言うのよ」

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