第3章

頭上で冷たい蛍光灯が唸り、がらんとしたコンピューター室にきつい影を落としている。部屋に響くのは、サーバーの駆動音と、狂ったようなキーボードの打鍵音だけだ。

私は上島真由の隣に座り、いくつものモニターがコードとデータストリームで溢れるのを、心臓を激しく鳴らしながら見つめていた。

「真由、遅いのはわかってる。でも、これ、母さんの命に関わることかもしれないの」私は震える手で印刷された医療報告書を握りしめた。

真由は顔も上げず、指をキーボードの上で踊らせる。「瑞希、大げさなのはやめて。その報告書をこっちに寄越しなさい。どんなデタラメを掴まされたのか、見てやるから」

彼女が医療ファイルをシステムにスキャンすると、たちまち画面は十六進法のコードで埋め尽くされた。

数分後、真由が突然手を止め、コードの一列を指差した。「瑞希、これ、素人の仕事よ。電子署名は正規の書類からコピペされてるけど、日付が一致しない」

血の気が引くのがわかった。「じゃあ、この医療報告書は全部、捏造だって言うの?」

真由はタイピングを続けながら、さらにデータを表示させる。「捏造ってだけじゃない――やっつけ仕事よ。これをやった奴は、とにかく早く仕上げたくて、足跡を消すことなんて気にしてない」

画面に表示されたメタデータに、私は衝撃を受けた。ファイル作成日時は、昨日、午後2時。

「先週の報告書の日付じゃない……」私は震えながら呟いた。「これ、昨日作られたんだ。私が送金を決めたちょうど数時間後に!」

真由が椅子を回転させて私に向き直った。「あんたの兄貴、パソコンはどのくらいできるの?」

「大和が? エクセルをかろうじて使えるくらいよ」

「なら、誰かが手伝ってるわね」真由の目が鋭くなる。「しかも、そいつは急いでいた」

午前四時。真由の調査はさらに深まっていた。私は研究室の中を歩き回り、窓の外には北海の静かな夜景が広がっている。だが、私の内面は火山のようだった。

「冗談でしょ、瑞希!」真由が突然叫んだ。「あんたの兄貴、クラウドファンディング詐欺をいくつもやってる! 見てこれ――『自殺未遂の母のための緊急手術』、『家庭の危機、助けを求む』」

私はスクリーンに駆け寄り、少なくとも三つのクラウドファンディング・プラットフォームに大和のアカウントがあるのを見た。どれも「自殺しようとした母を救う」というテーマだった。

「1,80万円?」私の声は砕け散った。「死にかけの女性を助けてると思ってる見ず知らずの人たちから?」

「1,80万円じゃなくて、1,800万円よ」真由が訂正した。「すでに1,800万円も集めてる」

めまいがして、倒れないように机の端を掴んだ。

真由は作業を続けた。その声には怒りが増していく。「それに、これを見て――昨日の午後三時、あいつのスマホのGPSは雲海カジノを示してる。病院なんかじゃない」

スクリーンには大和の位置情報が表示されていた。過去一週間、ずっと北海ダウンタウンにおり、昨日の午後三時には雲海カジノから「運が向いてきた!」というキャプション付きで投稿している。

「川崎にすらいなかったんだ……」声が喉に詰まった。「昨夜の『病院からの電話』は……」

「全部、芝居よ」真由は冷たく言った。

午前六時。私は疲れ切った体を引きずってアパートに戻った。リビングルームでは、翔太がソファに座り、ノートパソコンを開いていた。徹夜したのは明らかだった。

朝の光がブラインドの隙間から差し込み、彼の顔に縞模様の影を落としていた。

「瑞希、話がある」彼の声は嗄れていた。「何ヶ月も前から、大和が作った厄介事から私たちを守ろうとしてきた。この銀行振込もそうだ。あいつがアクセスできないように、口座を確保するためのものなんだ」

彼はノートパソコンを開き、弁護士とのメールのやり取りを見せた。

「だったら、どうして私に言ってくれなかったの? なぜこんなに秘密主義だったの?」私は問い詰めたが、心の中はまだ疑念でいっぱいだった。

翔太は私の目を見つめた。その表情には疲労と苦痛が入り混じっていた。「君と家族との関係を壊さずに、この問題を解決できると願っていたからだ。君にとって彼らがどれだけ大切か、わかっている」

彼はさらに証拠を示した。涼子は、確かに他の詐欺被害者たちに雇われた私立探偵だった。

「彼女の狙いは私じゃなく、君の兄さんだった。でも、私を通して君に近づく必要があったんだ」翔太の声には罪悪感が滲んでいた。

「じゃあ、全部知ってたってこと?」

「疑ってはいたが、証拠がなかった。昨日、あの報告書を見た時、何かがおかしいと確信したんだ」

同じドトールコーヒー。

今度は翔太と私が一緒に店に入った。涼子さんはすでに隅のテーブルに座っていた。私たちが一緒に現れるのを見て、彼女の顔に驚きがよぎった。

「昨日は騙すような真似をして申し訳ありませんでした」涼子さんは単刀直入に切り出した。「ですが、瑞希さんが星野大和の活動についてどれだけ知っているか、見極める必要があったのです」

彼女は分厚いファイルフォルダーを広げた。「私は確かに私立探偵です。少なくとも8つのご家族からご依頼を受け、星野大和という人物が複数の都道府県にまたがって行っている詐欺の手口について調査を進めております。」

心臓が止まりそうになった。「大和が、他の家族にも同じことをしているって言うんですか?」

涼子さんは真剣な表情で頷いた。「私たちが把握しているだけで、少なくとも八件。若いキャリアウーマンで、高齢の親がいて、そして、狙う価値のある資産を持っている人たちです」

彼女は大和の犯罪ファイルを見せた。大学時代の小規模な詐欺から始まり、次第に複雑な家族の資産操作へとエスカレートしていく記録だった。

「北海、緑山、青葉――彼は全国の被害者を標的にしています」涼子さんは続けた。「ですが、瑞希さんは彼にとって過去最大の獲物です」

「最大?」

「瑞希さんはすでに自分の名義で7,500万円以上の借金を背負わされている可能性があります。そして今、彼は刑事告発に直面しています」

翔太が私の手を握りしめた。「だから私は、私たちの資産を動かさなければならなかったんだ。もし大和が逮捕されたら、債権者たちは君の全財産を差し押さえに来るだろう」

私は翔太の車に座り、ダッシュボードの上でスピーカーモードにした電話を置いていた。川崎総合病院に電話をかける手が震えていた。

「川崎総合病院です」

「母の入院について確認したいのですが。星野玲奈、一昨日の夜に救急搬送されたはずです」

キーボードを叩く音。そして、胸が張り裂けそうな沈黙。

「申し訳ありません、お客様。過去七十二時間以内に、星野玲奈様という方の入院記録はございません。病院はお間違いありませんか?」

私の声が震え始めた。「名前の表記違いでも調べていただけませんか? 自傷行為で……運ばれたはずなんです」

さらに検索する音。

オペレーターが再び答えた。「その状況に合致する救急搬送はありません。患者ご本人に直接連絡されてみてはいかがでしょうか?」

電話を切ると、車内は死のような静寂に包まれた。

翔太が優しく言った。「瑞希、本当にすまない」

「二十八年間」私は外を歩く学生たちをぼんやりと見つめた。「二十八年間、私は家族を守っているつもりだった。でも、結局はただのATMだったんだ」

「君は世間知らずなんかじゃない――愛情深いんだ。大和はその愛情を利用した。でも、だからといって君が愚かだったわけじゃない」翔太は私の手を握った。

私は深呼吸をして、決心した。「今夜、川崎まで車で行くわ。自分の目で母さんに会って、この茶番をきっぱりと終わらせないと」

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