トラスホール
アメリア
数時間しか眠っていないはずだったのに、ビアンカの怒鳴り声で私は目を覚ました。「さっさと起きなさいよ、このグズが！ お父様があなたを必死で探してるのよ。それなのに地下牢なんかに隠れて！ もうすぐアルファ・ランドンがいらっしゃるわ。私たちは何でもあなたを使えるようにしておかなきゃならないの。私はランドンを私のメイトにしたいの。あなたに台無しにされたくはないわ」ビアンカは唸りながら、簡易ベッドから私を引きずり起こそうとする。
こんなところに凝った服で下りてくるなんて、馬鹿みたいだ。アルファ・ランドールはよほど腹を立てているに違いない。皆に私を探させているのだから。私は立ち上がり、彼女の手を振り払った。
「その手を離して。今行くから」私は隣の独房に目をやった。ビアンカがその視線に気づく。
「あら、当ててあげましょうか？ 地下牢のネズミにでも身を売ったわけ？ 別に驚きはしないけど」
私は何も答えなかった。時間の無駄だし、目が覚めたとはいえ、彼女の相手をするには疲れすぎていた。私は階段をのろのろと上り、パックハウスへと向かった。
「違うわ。自分の場所に戻って体を洗いなさい。臭いわよ。本気で、その悪臭でランドンを毒殺する気？」大した言い草だ。
この汚れが彼らのせいだと言い争う気にもなれなかった。代わりに、私はその願ってもない機会を利用して、家に帰って体を洗うことにした。
肩の調子が少し良くなってきた。まだ痛むけれど、前よりはましだ。こっそり食べ物を手に入れられれば、もっと良くなるだろう。今日は食事を要求してみようか？ さすがに客人の前で私に食事を拒否したりはしないだろう。後でその代償を払わされることになるだろうけど、ちゃんとした食事のためならそれだけの価値はある。
私はよろよろと家に帰り、服を脱いだ。シャワーをできるだけ熱くして、何週間も溜まった汚れを洗い流す。彼らはどういうわけかここでの私の水の使用量を見張っているので、注意しなければならない。あるいは、私を管理下に置くためにでっち上げただけか。どちらにせよ、その脅しは効いていた。
髪を洗うのも、服を洗うのも同じ石鹸を使わなければならない。髪用ではないので、歩くモップバケツのような匂いがする。そのせいで髪のもつれを解くのに何時間もかかった気がする。絶えず髪が引っ張られて、頭皮が燃えるように痛い。
大嫌いだ。
急いで辺りを探し回り、黒い使用人のドレスを見つけて身に着けた。清潔ではないけれど、目立って汚れているわけでもない。
ドレスのしわを伸ばし、濡れた髪を後頭部でまとめ、きついお団子にしてから黒いフラットシューズを履いてドアを出た。ドレスを着るのは嫌いだ。下劣なアルファたちがスカートの下に手を入れてくるのに好都合すぎるから。
ビアンカがアルファ・ランドンをうまく引きつけておいてくれることを願う。もし彼がそういう下劣なタイプだった場合のために。私はこれまでほとんどの最悪な状況を切り抜けてきたし、その記録を更新し続けたい。
私はパックハウスへと歩きながら、途中で寄り道することにした。まあ、二か所だ。一つはキッチンで食べ物を盗むため、もう一つは地下牢へ。私は古くて意地の悪いクソババア、ルースの裏庭を通り抜けた。彼女は交代で「私を育てた」者の一人だ。だから、今頃彼女の木のリンゴがなっているはずだと知っている。私は茂みに隠れ、誰も見えなくなり、物音も聞こえなくなるまで待った。慎重に彼女の裏庭に忍び込み、何度か周りを見回してからリンゴを二つもぎ取り、ドレスの内側に押し込んだ。
ブラも役に立つものね。
栄養失調気味ではあるけれど、まだブラを着けるだけの理由はあった。それに、どのみち誰も私のことなんて気にして見やしない。私はうつむき加減で、通路や廊下の物陰に隠れながら、キッチンまでの道が安全になるのを待った。
食料の盗みに成功すると、脱走だってうまくいくんじゃないかという誤った自信が植え付けられる。それが、私が頻繁にルールを破ろうとしない理由の一つだ。
二つ目は、捕まったときの罰。
私はフロリスが背を向けるのを待ち、身をかがめてキッチンに忍び込む。小柄な体を隠すのにアイランドキッチンを使った。ひょいと顔を上げて誰もいないのを確認し、アイランドキッチンからローストとポテトの皿を二枚盗む。フロリスが奥の冷凍庫に向かって足を引きずるような音を立てるまで数瞬待ち、一気に駆け出した。できる限り素早くキッチンを飛び出し、食堂の出口へと向かう。
外に出ると、うつむいたまま、使用人たちの部屋がある裏手から屋敷を出た。そこへの立ち入りも許されていないけれど、今日の制服のおかげでうまく紛れ込める。
使用人用の廊下を抜け、裏口から外へ。森を迂回する遠回りな道を通って、地下牢のある小屋の裏手へと回り込んだ。建物の壁にしばし寄りかかり、シフターとしての聴覚の残りをすべて使って、周りに誰かいないか耳を澄ます。人の気配も物音もなかった。
皆、きっとあのアルファの到着を待ちながら、最後の仕上げに追われているのだろう。
そんなの、クソどうでもいい。
私はドアを開け、片方の皿の上にもう片方を慎重に重ねながら中に入る。皿の底にポテトがくっついていても、この見知らぬ男は文句は言わないだろう。そして、すぐに背後でドアを閉めた。誰かが壁に灯した燭台から漏れる光はごくわずかだ。見知らぬ男はまだ奥の壁際にいて、闇に隠れている。けれど、今日の方が彼の姿はよく見えた。角張った顎に、高い頬骨。白目がはっきりと見え、その瞳は赤く輝いている。危険で強力な狼の証だ。
それについて本で読んだ記憶がある。それに、どこか見覚えがあるような気もした。
「小さな戦士さんも、着飾ると見違えるな」彼が言うので、私は呆れて目を眇めた。
「うるさい。食べ物を持ってきたわ」私は皿を床に置き、鉄格子の下のわずかな隙間から独房の中へ押し込む。さらに棒を使って奥へと押しやった。彼が望まないのなら、無理に影の中から引きずり出すつもりはない。
彼の機嫌を損ねるほど、私は馬鹿じゃないのだ。
「怖いのか、小さな戦士さん？」と彼が尋ねるので、私は正直に答えた。
「いいえ。それよりポテトを一つ残しておいて。残りはあなたにあげるから、ここから出るための力をつけて」私はそう告げる。本気でポテトが食べたかったから、彼がちゃんと聞いてくれているといいんだけど。
彼は笑うと、ポテトをすべて一枚の皿にかき集め、肉を数切れだけ残してもう一枚の皿から取り除き、棒で私のほうへ滑らせて返してきた。彼の顔がもう少し影から現れる。
短い無精ひげが顔を覆っていた。引き締まった顎のライン。彼が微笑むと、美しくまっすぐな歯並びがちらりと見えた。異性に魅力を感じたのが、一体どれくらい前のことだったか思い出せない。
これまで魅力的だと思ったシフターたちも、その憎しみに満ちた言葉で全てを台無しにしてきたのだ。
私はポテトと数切れの肉を急いで食べ終え、厨房に戻るためのカモフラージュに使うため、皿を回収した。「その首輪のリモコン、手に入れてみる」私は彼に告げた。本心からだった。
「気をつけろ、小さな戦士さん。万策尽きたら、俺が力ずくで引きちぎる」そう言う彼の言葉を背に、私は階段を上った。
