第57章 好きじゃない

お食い初めの当日。

早朝、桐島翔太は藤咲花音のアパートの下まで車を走らせ、電話をかけた。

花音は朝食を済ませたばかりだったが、電話を受けると慌ただしく階下へ降りた。

団地の老人たちに見つかれば、またどんな噂を立てられるか分かったものではないからだ。

これからヘアメイクをするため、花音は動きやすいゆったりとしたワンピースを纏い、髪を無造作に低い位置で束ねていた。顔には化粧っ気もない。

その姿に、桐島翔太は思わず大学を卒業したばかりの頃を思い出した。

あの頃、藤咲花音はまだ彼を愛していた。

花音が車に乗り込んでくると、桐島翔太は瞳を優しさで満たして呼びかけた。

「カノン」

花音...

ログインして続きを読む