第4章 酷い依怙贔屓

「結構よ!」

神崎彩は間髪入れずに拒絶した。

西園寺蓮が口を開きかけたが、助手席の九条莉奈が先に声を上げた。「神崎秘書、ごめんなさい。今回は私が至らなくて、あなたに尻拭いをさせることになってしまって。

申し訳なくて、直接謝りに行こうと思ったの。蓮お兄様が心配して、一緒に行くって言ってくれて。

早く乗って。一緒に行きましょう。蓮お兄様が守ってくれれば、誰も私たちをいじめたりしないわ」

一見、無邪気な言葉。

だが神崎彩は見ていた。彼女の口元に浮かぶ得意げな笑みを。あからさまな示威行為だ。昼間、会社で泣きじゃくっていた姿はどこにもない。

どうやら西園寺蓮のご機嫌取りは成功したらしい。

神崎彩も笑みを浮かべた。彼女と口をきくのも億劫で、そのまま自分の車に乗り込もうとした。

だが九条莉奈は、彼女の口元に浮かんだ軽蔑を見逃さなかった。

九条莉奈は名家の令嬢として育った。家の威光を笠に着て、これまで他人に見下されたことなどなかった。

彼女は我慢できず、神崎彩に向かって罵声を浴びせた。「神崎彩、どういうつもり? 私が親切に謝ってあげてるのに、その態度は何?」

「いい加減にしろ、二人とも」

西園寺蓮がたしなめ、九条莉奈に宥めるような視線を送った。

そして彼は神崎彩に向き直った。「彼女はまだ世間知らずの小娘なんだ。プロジェクトを失敗したのも無理はない。そんな態度をとるのは言い過ぎじゃないか? 彼女に謝れば、この件は水に流そう」

一瞬、神崎彩は聞き間違いかと思った。

彼は何か質の悪い冗談でも言っているのか?

彼女は振り返り、車内の男を見た。「私が彼女に謝る? 彼女が九条家の令嬢だから? それとも私のプロジェクトを奪ったから? それとも、プロジェクトを台無しにして私に尻拭いをさせているから?」

立て続けの三つの問いに、西園寺蓮の顔色は恐ろしいほど険しくなった。怒りを抑えながら言う。「何度も言わせるな。彼女は甘やかされて育った小娘で、言動が奔放なだけだ。何をそんなにムキになっている?」

その言葉……。

まるで九条莉奈が犯した大失敗は単なる「奔放」で済まされ、何もしていない神崎彩が狭量で、理不尽に責め立てているかのような言い草だ。

西園寺蓮、その偏った心、一度鏡で見てみたらどう?

隣の九条莉奈は得意満面で、勝ち誇ったように神崎彩を見下ろしている。

神崎彩は鼻で笑った。声は氷点下のように冷たい。「西園寺社長、私は何も言っていないはずですが? あなたの小娘がどれだけ奔放に振る舞おうと勝手ですが、私の目の前で奔放にするのはやめていただきたいですね」

西園寺蓮の顔色がさらに悪化した。

神崎彩はこれ以上彼らと関わるのも面倒になり、腕時計を一瞥して淡々と言った。「片岡グループとの会食まであと十五分です。西園寺社長、本気で私にあなたの小娘への謝罪を要求するおつもりですか?」

西園寺蓮は黙り込み、重く冷たい視線で彼女を見つめた。周囲の気圧が数度下がったかのようだ。

神崎彩はそれを完全に無視し、背を向けて自分の車に乗り込んだ。

道中、彼女は赤い唇を引き結び、瞳の奥に幾重もの冷気を漂わせていた。

胸の奥に走る鋭い痛みを、必死に無視しようとした。

西園寺蓮が九条莉奈を庇った光景を思い出したくない。

彼が神崎彩に向けた嫌悪の眼差しを思い出したくない。

全て、どうでもいいことだ。

どうせ、あとたった二十九日の辛抱なのだから。

車を飛ばし、クラブの駐車場に到着した。

車を停め、シートに背を預けると、彼女は深く目を閉じた。

短い沈黙の後、全ての感情を押し殺し、状態を整え、化粧ポーチを取り出してメイクを直してから車を降りた。

その時、西園寺蓮と九条莉奈も到着した。

彼らの車はまたしても神崎彩の隣に停まった。

神崎彩は彼を一瞥もしなかった。

それが西園寺蓮の機嫌をさらに損ねた。

二人は言葉を交わさなかったが、一触即発の空気は誰の目にも明らかだった。

九条莉奈はさらに火に油を注ぐように、西園寺蓮に言った。「蓮お兄様、あなたは彼女の上司よ。彼女はただの生活秘書で、江藤補佐より地位も低いのに、なんであんな態度をとるの?」

数メートル先を歩いていた神崎彩の耳に、その言葉ははっきりと届いたが、彼女は振り返らなかった。

西園寺蓮は九条莉奈に警告の視線を送り、彼女は不承不承口を閉ざした。

三人はクラブ・インペリアルの予約された個室へと向かった。

神崎彩が先に入室する。

すでに片岡グループの責任者である小林和也と、二人の同僚が到着していた。

小林和也は片岡グループの部門長であり、片岡一族の婿でもある。四十代で太鼓腹の男だ。

小林和也はその突き出た腹を揺らしながら神崎彩を一瞥した。眼には貪欲な色が浮かんでいるが、言葉は鋭かった。「神崎さん、また私をすっぽかすつもりかと思いましたよ」

神崎彩は来る前から分かっていた。西園寺グループが契約直前に担当を変え、その代役の九条莉奈が小林和也を怒らせたのだ。小林和也はそのツケを必ず神崎彩に払わせようとするだろうと。

神崎彩は言い訳をせず、微笑んだ。「この件は私の不手際でした。罰として三杯、お詫びの杯を干させていただきます。小林社長、どうか寛大な御心で、水に流していただけませんか」

彼女が先に非を認め、しかも女性である以上、相手もそれ以上強くは言えない。

小林和也は二人の同僚に向かって言った。「ほら言っただろう、神崎さんは話が分かるって」

そう言うと、彼は隣の椅子を叩いた。「神崎さん、さあ、ここへ座って」

あからさまな暗示だ。

神崎彩はもちろん知っている。この男が酒好きであるだけでなく、女好きであることを。

隣に座れば、必ず体を触ってくるだろう。

だから彼女はその動作に気づかないふりをして、一つ席を空けた椅子に座った。

小林和也の顔色が曇り、何か言おうとしたその時、西園寺蓮が九条莉奈を連れて入ってきた……。

小林和也は一瞬驚いたが、すぐに反応し、歩み寄って西園寺蓮に手を差し出した。「まさか西園寺社長がいらっしゃるとは。西園寺社長、初めまして、小林和也です」

少し卑屈な口調だ。

西園寺蓮はもちろん自らの品位を下げるような真似はしない。

小林和也の熱意には応えず、ただ冷淡な視線をくれただけだった。

小林和也は少し気まずそうにしたが、すぐに気を取り直し、椅子を引いて西園寺社長に言った。「西園寺社長、どうぞお掛けください」

西園寺蓮は座り、冷淡な眼差しでその場の数人を一瞥した。

神崎彩は彼など存在しないかのように振る舞い、同席者たちに挨拶し、小林和也と談笑した。

小林和也は自ら彼女に酒を注いだ。「神崎秘書、さっき言いましたよね、自ら罰杯を受けると」

前のチャプター
次のチャプター