第10章

鳴瀬葵視点

病院の廊下で、心臓が太鼓のように激しく鳴り響いていた。

隣を歩く市川さんの顔は神妙だが、決意に満ちている。十分前、私たちは必死に追いかけてくる鳴瀬心美を振り切り、今、高橋和人さんの病室へと急いでいた。

「葵くん」市川さんが不意に立ち止まった。「中に入る前に、これだけは伝えておきたい……何が起ころうと、君がしてくれたことすべてに感謝している」

私は頷き、手に持ったハーモニカを強く握りしめた。

病室の入り口では、鈴木先生がそわそわしながら私たちを待っていた。

「市川さん!鳴瀬さん!」鈴木先生は興奮した様子で駆け寄ってきた。「素晴らしいことになりました!高橋さんの状...

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