第8章
東京大学病院、神経内科病棟の前。私の手は小刻みに震えていた。鈴木先生が、そっと私の肩を握る。
「覚えておいてください、プレッシャーを感じる必要はありません。音楽療法はゆっくり進めていくものですから」
だが先生は知らない。これはただの音楽療法ではない。十年前のあの交通事故と、父が犯した罪と、私が向き合うための瞬間なのだ。
病室のドアが開けられた。
高橋和人さんは、様々な医療機器に囲まれ、ベッドに静かに横たわっていた。想像していたよりも若く見える。五十代くらいだろうか。白髪交じりの髪、そしてその顔には、今なお気品のようなものが宿っていた。
この人は、父が事故を起こした相手。
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チャプター
1. 第1章
2. 第2章
3. 第3章
4. 第4章
5. 第5章
6. 第6章

7. 第7章

8. 第8章

9. 第9章

10. 第10章


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