第9章

市川太朗視点

私は音響技師から受け取ったばかりの音声分析レポートを握りしめ、録音スタジオのドアの外に立っていた。感情が嵐のように荒れ狂っていた。

三日前、ある疑念が私の心に芽生え始めていた。鳴瀬心美の「作曲した」という曲は、本当に彼女自身の作品なのだろうか、と。

プロデューサーとして、私は数えきれないほどの楽曲を聴いてきた。どんなクリエイターにも、ハーモニーの進行の好み、メロディーの展開の癖、感情表現のスタイルといった、特有の「音楽的指紋」がある。それはDNAのように個性的で、偽造など不可能だ。

そして、鳴瀬心美が最近提出してきた曲は、彼女が歌ってはいるものの、まったくの別人...

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