第4章

山崎絵美視点

翌朝、私は父が遺した会計事務所を訪れた。

昭和の香りが色濃く残る下町の、古びた雑居ビル。その四階にある一室が、父の仕事場だった。父の死後、そこは主を失ったまま時を止め、私が時折書類の整理で訪れるだけになっていた。

震える手で鍵を回し、ギィ、と軋む音を立ててドアを開ける。かびと埃の入り混じった、懐かしくも淀んだ空気が鼻をついた。

かつて森本家に仕えていた会計士の娘である私だけが、父が本当の〝秘密〟をどこに隠しているかを知っていた。今、このファイルに手を出すことがどれほど危険か、理解している。それでも、私は真実を知らなければならなかった。

古びたスチール製の机...

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