第126章 もう彼を全部見ちゃった

運転手はバックミラー越しに謝部綾人を見た。

許可を得てから、御影星奈が告げた駅北通りへと車を走らせる。

道中の高層ビル群は、次第に連なる山々へと姿を変えていった。

空は黒い雲に覆われている。

御影星奈は瀬央千弥に電話をかけた。

だが、向こうは応答しない。

女の表情は険しい。瀬央千弥が少しでも長く時間を稼いでくれることを願うばかりだ。

隣に座る謝部綾人は、その一部始終を目にしていた。

彼は御影星奈のすぐ隣に座っている。

身長差のおかげで、少し視線を落とすだけで女のスマートフォンの画面がすべて見えてしまうのだ。

御影星奈が瀬央千弥に電話をかけている。

...

ログインして続きを読む