第6章 西園寺グループの未来の女主人は誰か
西園寺京夜は冷然と見下ろしていた。その瞳の奥には、彼女には理解できない怒りが渦巻いている。
葉山立夏は絨毯に手をつき、ゆっくりと上体を起こした。彼に掴まれた手首にはすでに青紫色の痣が浮き上がり、火傷のような痛みが走る。
彼女は彼の視線を真っ向から受け止めた。その瞳には、死のような静寂しか宿っていない。
「西園寺京夜、私に触らないで!」
西園寺京夜の瞳孔が急激に収縮した。彼は身を屈め、彼女の顎を掴んで無理やり自分を見させると、指先に懲罰じみた力を込めた。
「葉山蓮が今日出てきたからって、そんなに急いで彼のために操を立てたいのか?」
彼の目には、私はそれほど尻が軽く、恥知らずな女に映っているのか?
葉山立夏はふと笑った。だがその笑みは目の奥まで届いていない。
「そうよ、あなたの言う通りだわ」
彼女は抵抗を諦め、弁解も諦めた。
「だから、私を解放して。あなた自身も解放してあげて」
彼女の従順さは、どんな激しい反抗よりも西園寺京夜を激怒させた。
正体不明の業火が、彼の残された理性を焼き払った。
彼は彼女が泣き、喚き、弁解すると思っていた。だが彼女はしなかった。
その眼差しさえも、まるで他人を見るかのようだ。二人の五年の結婚生活が、まるでどうでもいい取引だったかのように。
「解放だと?」
西園寺京夜は冷笑し、彼女を放して立ち上がると、ゆっくりとシャツの袖ボタンを外し始めた。
「葉山立夏、忘れたのか? 西園寺家に嫁ぎたいと懇願したのはお前だ。ゲームの終わりは、俺が決める」
「俺から離れて葉山蓮とよろしくやれると思っているのか? 言っておくが、俺の一言があれば、奴は一生まともな職には就けないぞ」
「恥知らず!」
葉山立夏の声が震えた。
「もっと恥知らずになれるさ」
西園寺京夜は彼女を見下ろし、冷酷な目で言った。
「西園寺グループでの閑職もそのままにしておくのはやめだ。明日から毎日、西園寺グループに出社しろ」
そうすれば、葉山立夏が葉山蓮のことを考える余裕などなくなるだろう!
葉山立夏は呆然とした。彼が何を企んでいるのか理解できない。
彼女の驚愕の表情を見て、西園寺京夜の口元に残酷な笑みが浮かんだ。
彼は彼女を自分のそばに縛り付け、彼女が心に想う男が、彼女のせいでいかに地に落ちていくかを見せつけてやるつもりだった。
誰が彼女の唯一頼れる人間なのか、思い知らせてやるために。
翌日、西園寺ホールディングス。
葉山立夏は部署のガラスドアの外に立ち、少し呆然としていた。
この部署は西園寺グループでは有名な「老人ホーム」であり、聞こえはいいが、実態はコネ入社や窓際族を収容する冷遇部署だった。
彼女は海外で金融を学んだが、西園寺京夜は彼女をここに配置した。その意図は明白だ。
オフィスには数人がまばらに座っており、こっそり通販サイトを見ている者、手鏡で化粧直しをしている者、集まって噂話をしている者などがいた。
葉山立夏の到着に、全員の視線が一斉に突き刺さった。
この社長夫人が、名ばかりで家政婦以下の扱いを受けていることは周知の事実だ。
羊毛のようなパーマをかけた女が、嫌味たっぷりに口を開いた。
「あら、社長夫人じゃないですか。どうしてこんな小さな部署にお暇が?」
葉山立夏は彼女を無視し、ストライキ寸前の古いパソコンを立ち上げた。
席などどうでもいい。他人の目などどうでもいい。ただ静かに離婚の日まで耐えればいい。
しかし、西園寺京夜は明らかに彼女の願いを叶えるつもりはなかった。
午後二時半、部署の定例会議の最中にオフィスのドアが開き、西園寺京夜が入ってきた。
彼の後ろには、シャネルの最新スーツを着こなし、完璧なメイクをした若い女性が続いていた。
九条玲奈だ。
オフィスは瞬時に静まり返った。
西園寺京夜は室内を見回し、葉山立夏に一瞬視線を留めた後、すぐに隣の九条玲奈へと移した。その冷厳な顔には、珍しく柔らかな色が浮かんでいた。
「紹介しよう。九条玲奈だ。今日から戦略開発部の副部長を務める」
副部長?
全員が息を飲んだ。
田中という正規の部長でさえ名ばかりなのに、さらに副部長? しかも西園寺社長直々の紹介で?
全員の視線が葉山立夏と九条玲奈の間を行き来し始めた。
葉山立夏は隅に座り、目を伏せていた。まるで目の前の出来事が自分とは無関係であるかのように。
九条玲奈は皆に優しく微笑みかけ、まるで自分がここの女主人であるかのように振る舞った。
「皆様こんにちは、九条玲奈です。新参者ですが、これからよろしくお願いします」
彼女の声は甘く、しかしその目には勝者の色が宿り、意図的に葉山立夏をちらりと見た。
「京夜お兄様から、立夏お姉様はお体が弱いと伺いました。普段のお仕事で無理をなさらないでくださいね。何かあれば私や皆にお任せください。西園寺グループはとても人間味のある会社ですから、病人を働かせたりしませんわ。そうですよね、田中部長?」
田中は顔色を読むのに長けており、すぐに意図を察して慌てて同意した。
「はいはい、九条部長の仰る通りです! 奥様……いや、葉山立夏、君は体が大事だ。今後、部署の雑務は心配しなくていい。ゆっくり静養していればいいさ」
オフィスの他の面々も、風向きを見て態度を変えた。
「そうですよ立夏お姉様、顔色がすごく悪いですし、長期休暇でも取って休まれたらどうです?」
「九条部長がいれば安心ですよ!」
一句一句の「気遣い」が、葉山立夏を部署のお荷物へと変えていく。
九条玲奈は満足げにそれを見つめ、笑みを深めた。
彼女が求めていたのは、この効果だ。
誰が西園寺京夜の隣にふさわしく、誰が西園寺グループの未来の女主人なのか、全員に知らしめるために!
会議が終わり、皆が九条玲奈を取り囲んで去っていくと、オフィスに静寂が戻った。
あの羊毛パーマの女が近づいてきて、白々しく葉山立夏の肩を叩いた。
「気にすることないわよ。女はやっぱり体が丈夫で、子供が産めなきゃね。見てごらんなさい、何年も耐えて、結局は他人のために席を温めてただけじゃない」
葉山立夏はようやく顔を上げた。古井戸のように波のない瞳には冷たさだけがあり、彼女はゆっくりと口を開いた。
「板生さん、先月の住宅ローン、旦那さんのボーナスで払ったのよね? あのプロジェクト、確か西園寺社長の特別承認だったはずだけど」
板生の顔から笑顔が凍りついた。
葉山立夏は次に、会議で九条玲奈に同調していた男性社員を見た。
「蔦見さん、息子さんの小学校入学、裏口入学の費用は安くないでしょう? 奥様が最近転職を考えているそうだけど、人事部の手続きはまだ終わってないんじゃないかしら?」
