第72章 人違い

西園寺京夜はようやく重い瞼を持ち上げた。

車内の照明は落とされており、彼の顔は深い陰影に沈んで表情を読み取れない。ただ、その声だけが氷点下のように冷徹だった。

「今夜の報酬は、秘書に計算させて振り込む」

九条玲奈の顔に張り付いていた笑みが凍りついた。

「報酬……ですって? あなたの目には、私のこれまでの献身が、金で量れるただの取引にしか映らないの?」

「それ以外に何がある」

京夜は顔を向け、底冷えするような黒い瞳で彼女を射抜いた。

「君が欲しいのは『西園寺家の奥様』という座と、それに付随する利益だろう。俺は今夜、その茶番に付き合い、メディアの前で君の顔を立ててやった。損な取引で...

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