チャプター 2
【テッサ視点】
「もう! いくらメイクしても、目の下のクマが消えないじゃない! フェリシティ夫人のせいなんだからね! 昨日の夜、あんな嵐の中に私たちを立たせておくなんて……本気なの? 私たちが寝不足で、自分の手入れもできない女だって、狼たちに思わせたいわけ!?」
エリンはマスカラのブラシを激しく振り回しながら、早口でまくし立てた。
昨晩の避難訓練は初めてのことではなかったけれど、タイミングとしては最悪だった。何しろ、今日から私たちの『審判の日』が始まるのだから!
「数時間でも寝られただけマシだよ! 私なんてアラームが鳴る前から目が覚めちゃって、せいぜい一時間くらいしか寝てないんだから」
私は笑いながらそう言い、ブロンドのポニーテールを櫛で梳かして、頭の高い位置でヘアゴムできっちりと結んだ。
メイクのノリは悪くないし、髪も整っている。自分の容姿に誇りを持っていることを示すためだ。これはキャンパスで教わった重要な教えの一つでもある――『常にベストな自分であれ』。
「ま、大丈夫よ! 私たちイケてるし! もし今日選ばれなかったとしても、それは次の群れにもっと素敵な狼がいて、私たちをさらってくれるってことよ!」
エリンはそう結論づけると、化粧ポーチのジッパーを閉め、立ち上がってもう一度自分の姿を頭からつま先までチェックした。
彼女の明るい茶色の髪は完璧なウェーブを描いていて、顔にかからないよう、前髪は小さな黒いリボンで後ろに留められていた。
今日の予定はこうだ。私たちはいつも通り学校生活を送り、集合のベルが鳴るまでは、普段通り授業や活動に参加する。
最初の群れがいつキャンパスに到着するかによるけれど、ベルは今日か明日には間違いなく鳴るだろう……。でも、私たちはいつ何時でも準備しておくように教えこまれている。
「じゃあ、警報が鳴ったら体育館に集まって、そこで彼らに品定めされるってわけね?」
エリンが尋ねてくる横で、私はスポーツ用のショートパンツとトップスを身に着ける。今日の最初の授業はダンスなのだ。
ダンスは、狼たちの目を引くための『特技』として私が選んだ活動だった。純粋に楽しいと思えるし、周りの女子たちからはよく思われていないけれど、先生たちは私を気に入ってくれているし、実力も認めてくれていた。
一方、エリンは音楽に夢中で、歌うこととピアノが好きだった。まるで本物の天使のような歌声を持っているのだ。
「うん、そうよ……。あとは、誰か一人の男性が、次のステージに進むトップ3の候補に私たちの番号を書いてくれるのを祈るだけ……。そこで初めて、彼らがパートナーを選ぶ前に、ちゃんとお互いを知ることができるんだから」
私はそう説明しながら、この日のために何年もかけて叩き込まれてきた手順を頭の中で再確認した。
何も問題はないはず……簡単なことよ。アラームを聞いたらホールへ向かい、列に並んで見てもらう……。その後は、狼たち次第だ。
「よし、そろそろ行かなくちゃ! 始業まであと十分しかないわ!」
小さな銀の腕時計を確認しながらエリンが言う。私は頷いて、バックパックを手に取った。
足早に歩きながら、私たちは寮を出てメインキャンパスへと向かう他の女子たちを横目で追った。誰もが、今日という日のために最高に美しく見せようと、一点の曇りもなく身だしなみを整え、すましている。
学習棟に近づくにつれ、空気は神経質なまでの期待感でざわついていた。エリンの楽観的な態度は伝染するもので、迫り来る「審判の日」の不確実さに怯える私にとって、それはささやかな救いだった……。
「みんな、マジで気合い入ってるじゃない! 今年はほとんどの子が選ばれると思うな! 私たちも運良く、どこかまともな『群れ』から選ばれるといいけど!」
人混みを縫うように進むエリンの後ろをついていく私に、彼女はニヤリと笑いかけた。
「想像できる? 有力な群れの一つに選ばれるなんて! 王族みたいに扱われるって聞いたよ!」
エリンはクスクスと笑い、肩越しに私を振り返ると、またすぐに腕時計を確認した。
エリンはいつも時間を守る。それは長年、私の得意分野ではなかった。時間の管理ができず、そのせいで何度も罰を受けてきたのだから……。
「あと数分でベルが鳴るはず……」
エリンが指を立てたが、彼女が言い終わる前に、反響する廊下にベルの音が鳴り響いた。最初の一限目の授業に向かうよう、私たちを促す合図だ。
「じゃあ、休み時間に会えるかな? それまでに警報が鳴って整列させられなければの話だけど!」
私がそう言うと、エリンは頷き、私たちは短い別れを告げてそれぞれの場所へと急いだ。
教室まではそうかからずに着いた。前方に、スタジオの曇りガラスのドアが見えてくる。
輝く鏡と磨かれた木の床は、私にとって常に聖域だった。リズムと動きに没頭し、技術を磨くことができる場所。
だが、その時の私は知る由もなかった。部屋で待ち受けている見慣れた顔ぶれが、この安息の地を再び悪夢に変えてしまうなんて……。
いつものダンスの先生がいないことで、落ち着かない空白が生まれていた。ドアの前で立ち止まると、先に着いていたクラスメートたちの視線が集まる……。
代わりに、ヘッドガールの一人であるジェシカが、腕をきつく組み、面白そうな顔をして前に立っていた。彼女がその場を仕切っているようだ。
彼女が私を軽蔑しているのは周知の事実であり、クラスリーダーという彼女の立場は、いつでも私に残酷な振る舞いをする絶好の機会を与えていた。
これは、まずいかもしれない……。
「見ての通り、レイラ先生が病欠だから、今日は私が任されたの!」
ジェシカの高い声が部屋に響き渡る。その言葉の端々に、自信が滲み出ていた。
私はドアのところからゆっくりと足を動かした。バッグを脇に置き、靴を脱いで場所を見つける。他の女子たちの背後、目立たない場所に隠れようとした。
授業が始まると、空気は敵意で澱んでいった。ジェシカは頻繁に私に手本を見せるよう求め、私がここにいることを認識していると知らしめた……私が目立たないようにしていたにもかかわらず。
ジェシカと彼女の取り巻きたちは、時間を無駄にしなかった。最初はクスクスという囁き声だったのが、徐々に私に向けられた残酷な嘲笑へとエスカレートしていく。
「ちょっとテッシー……もっと頑張りなさいよ! そんな風に体を振り回してるのを男が見たら、間違いなく吐いちゃうわよ!」
グレッチェンという子が鼻を鳴らして笑い、私の頬は真っ赤に燃え上がった。
ダンスの練習は、またたく間に悪夢へと変貌した。足運びは意図的に妨害され、移動するたびによろめき、つまずかされる。誰かがぶつかってきたかと思えば、床の上で足を引っ掛けられる始末だった。
最初の犠牲となったのは私の服だった。列の後ろにいた誰かの手がシャツの襟首にかかり、両手で強く引かれるのを感じたかと思うと、薄い生地が無残にも背中から引き裂かれたのだ。
「今日はちゃんとブラ着けてるといいわね、このアバズレ!」
今回の主犯格であるモリーが冷笑を浴びせる。
あちこちから悪意のこもった手が伸びてきて、激しく引っ張られる。他の女子たちも加勢し始め、かつては新品同様だったダンスウェアは見る影もなく引き裂かれ、ボロ布と化した。私の思考は、周囲で起きているこの惨劇に追いつくので精一杯だった。
今の私に残されたのは、厚手で破けなかったスポーツブラと、脚の方まで裂け目の入ったショートパンツだけ……。ショートパンツを穿いていた最初よりも、さらに無防備で恥ずかしい姿をさらすことになってしまった。
今日の扱いは、いつもとは明らかに違っていた。普段なら授業中に陰口を叩いたり、たまにつねったり足を引っ掛けたりする程度なのに、今日の彼女たちは手加減なしだ……私を完全に破壊しようとしている。
スタジオ中に嘲笑が響き渡る中、次の標的となったのは私の髪だった。もはや何人が私の周りでこの卑劣な妨害行為に参加しているのか、把握することさえできない。
一時間前には丁寧に結い上げていたポニーテールは、結び目も乱れ、無惨なほどぐしゃぐしゃにされてしまった。乱暴に引っ張られるたびに、私は痛みに息を呑んだ。
彼女たちの残酷さが極まったのは、私のメイクに矛先が向いた時だ。勝ち誇ったような愉悦の表情で私の顔をこすり、化粧を台無しにしたのだ。
逃げよう、身を守ろうとする私の抵抗は、彼女たちの攻撃性を煽るだけだった。伸びてくる手を振り払い、ドアへ向かおうとしたその時――乱暴な両手に引き戻され、私は床に倒れ込んでしまった……。
「お、お願い! も、もうやめて、行かせてよぉ……」
私は泣き叫んだが、背中に蹴りを入れられ、続いて脚にも蹴りが飛んできた。うめき声を上げ、なんとかもう一度立ち上がろうとするが……。
「み、み、見てよみんなぁ! あ、あたしの名前はテ、テッシーでぇす……お、お友達とダ、ダンス教室に行くのがすっごく怖いのぉ!」
ジェシカが私の吃音を真似すると、部屋中がヒステリックな爆笑の渦に包まれた。
かつては自己表現の希望に満ちていたスタジオは、今や私が尊厳を守るために戦う戦場と化していた――もっとも、現実はただ突き飛ばされ、蹴られ続けるだけだったが。
「『ウルフたち』のために今日おしゃれしてくるなんて、信じらんない! 自分が選ばれるとでも思ってたわけ?」
また別の誰かが大声で笑う。恥ずかしさと悔しさで、私の頬はカッと熱くなった。
涙が止めどなく溢れ落ちる。助けを求め、慈悲を乞いながら泣き叫び続けたが――誰一人として、手を差し伸べてはくれなかった。
どうして、今日なの? せっかく自分にも、自分の見た目にも自信が持てていたのに。今の私は、逃げ場もないまま床に転がる、ただの壊れた残骸でしかない……。
混乱の最中、彼女たちは部屋の向こうにあった私の靴とバッグさえも奪い取った――それは、私が平静を保つための最後のよすがだったのに。彼女たちは無情にも、それらを二階の窓から放り投げた。
私はただ、無力に見つめることしかできなかった。彼女たちが、私に残された最後の尊厳を剥ぎ取ることを楽しみ、喜びを露わにしているその姿を……。
だが、これ以上悪くなりようがないと思っていた矢先のことだった……。
あの忌まわしい集会の警報が、苦痛に満ちた部屋の空気を切り裂くように鳴り響いた瞬間、私は身を強張らせた。それはダンスの授業の終わりを告げると同時に、より切迫した試練の始まり――そう、「狼たち」の到着を意味していたのだ!
少女たちは皆、一瞬動きを止め、目を丸くした。だが次の瞬間、彼女たちは壁一面の鏡へと殺到した。無傷の顔と髪を今一度確認し、靴を掴んでドアへと急ぐ。私という獲物への関心は、もはや消え失せていた。
嘘でしょ!
今じゃなきゃいけないの!?
服は引き裂かれ、化粧はドロドロ、足は痣だらけで髪もぐちゃぐちゃ。私はスタジオの床に無惨な姿で横たわり、荒い息を吐きながら、パニックになりそうな心を必死で落ち着かせようとしていた。
警報が鳴り続ける中、少女たちは集結場所へと急ぎ去り、私は一人見捨てられた。どうすべきか、頭の中で選択肢が激しく駆け巡る……だが結局、私にはほとんど選択肢など残されていないことに気づくだけだった!
集会は私の到着を待っている。そして、身なりを整える時間などこれっぽっちも残されていない。
震える息を吐き出し、私は無理やり立ち上がった。ボロボロになった尊厳の欠片をかき集めるように服を掴み、鏡へと近づく。その動作だけで、足の痛みが鋭く蘇った。
時計は無慈悲に時を刻み、五分間の猶予は終わりへと近づいていく……。私は裸足のまま、傷だらけの体で出口へとよろめき歩いた。顔を出す以外に、道はなかったからだ……。
信じられないかもしれないが、集会を無断欠席したときの結果は、こんな惨めな姿で狼たちの前に出るよりも遥かに恐ろしいものなのだ!
これで確定だ。今日、私を「トップ3」に選ぶ男性など一人もいないだろう。それは確実だ……だから、次の群れが到着するときにまた挑戦するしかない。ただ、今回はエリンが私から奪われないことだけを祈っていた。
私はこぼれ落ちる涙を拭い、自分でも知らなかった底力を振り絞って廊下を急いだ。乱暴に拭うたび、手の甲が黒いマスカラで汚れていくのは見ないふりをした。
集会所への道のりは、悪夢の中を歩いているようだった。
一歩近づくたびに、刻まれた傷が疼く。そして、雄の狼たちの品定めするような視線に晒されることを想像すると、不安はいや増すばかりだった。
前方に集会所の扉がそびえ立つのが見え、私は深呼吸をして中へと駆け込んだ。そこには同学年の少女たちが全員、等間隔に並び、静まり返っていた。
狼たちはまだ到着していなかった。彼らより先に着けたことには感謝した……私は急いで後ろの方に場所を見つけたが、大勢の中からエリンを見つけ出すことはできず、結局たった一人でこの事態に立ち向かうしかなかった。
好奇の視線や忍び笑いを無視していると、やがてベルが鳴り止んだ。それは猶予時間の終わりを告げ、今にも狼たちが入場してくることを意味していた……。
私は唇を噛みしめ、一筋の涙が頬を伝うのを感じた。その直後、二つの入り口の扉が開く音と、それに続く低い話し声のざわめきが耳に届いた。
いよいよだ……私にとって初めての「審判の日」。それなのに、何もかもが最悪の展開になってしまった……。
