チャプター 110

キャスパー視点

よく眠れなかった。

ノアが今日から幼稚園に通い始めると思うと、自分でも意外なほど神経が昂っていた。

俺はノアのコートのボタンを留めてやった。その小さな顔は真剣で、決意に満ちている。

襟を直しながら、俺は尋ねた。「昨日の約束、覚えてるか?」

「パパとオードリーが幼稚園に送ってくれる」ノアは答えた。練習したかのような落ち着きの裏に、かすかな不安を滲ませた声だった。

「その通りだ」俺は腕時計に目を落とす。「行こう。初日から遅刻するわけにはいかない」

私立の幼稚園までの道中は静かだった。

ノアは窓の外を見つめ、新しいバックパックのストラップを指でもてあそんでいる。

その小さな肩に力が入...

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