第1章
書類仕事は嫌いだ。だが、高田リゾートの環境報告書となると話は別。あれには本気で腹が立つ。
私のデスクは、「我々は自然など微塵も気にしていない」と叫んでいるような書類で埋め尽くされている。何か月もかけてこの訴訟の準備を進めてきた。来週、ついに彼らの違法な拡張事業を差し止める訴えを起こすのだ。
電話が鳴る。出ようか一瞬迷った。
「渡辺玲文です」
「渡辺さん、いや、水原玲文さん。佐藤事務所の佐藤浩二と申します。高田家を代理しております。DNA鑑定の結果についてお電話いたしました」
私は書く手を止めた。DNA鑑定？「すみません、人違いです」
「あなたは水原玲文さん、一九七九年十一月十五日、中央病院生まれでお間違いないでしょうか？」
胃がずしりと重くなる。彼は知りすぎている。「はい、そうですけど――」
「水原さん、我々の遺伝子データベースであなたとの一致が確認されました。あなたは、高田武さんと高田恵子さんの実の娘さんです」
文字通り、息ができない。冗談に決まってる。
「そんなはずありません。私の両親は水原大輔と水原沙希です」
「ええ、あなたの養父母です。四十五年前、病院で赤ん坊の取り違えがありました。事故です。高田家はそれ以来、ずっと娘さんを探しておられました」
私は家族の写真に目をやる。翔太と私。翼と奏。この人たちが、私の家族だ。
「高田ご夫妻があなたに会いたがっています。できれば今週末に、ご家族と一緒に高田リゾートに来ていただけないかと」
高田リゾート。デスクの上の書類に目を落とす。私が法廷で叩き潰そうとしている、あの高田リゾート。
どうかしてる。
電話を切った後、私はただ座っていた。頭が情報を処理しようと必死になっている。私に生みの親がいる。どうやら金持ちの。そして私は、文字通りその人たちを訴えようとしている。
呆然としたまま車を運転して家に帰る。夫の渡辺翔太はキッチンテーブルで答案を採点している。息子の翼はソファでノートパソコンに向かっている。娘の奏はバイオリンの練習中だ。日常。安全。我が家。
「ひどい顔色だぞ」私を見た翔太が言う。
私はすべてを話した。電話のこと。DNAの一致。招待のこと。家族はそれぞれやっていたことをやめ、テーブルの周りに集まってきた。
「じゃあ、他に親がいるってこと？」奏が訊ねる。十五歳の彼女は混乱しているようだった。
「生みの親よ」私は訂正する。「あなたたちが私の本当の家族よ」
翼が身を乗り出す。十七歳の彼は、過保護なところがある。「その人たちに会いたいの？」
会いたいのだろうか？ 生みの親についてはずっと気になっていた。特に鏡を見て、水原家の母や父とは似ていない自分の顔立ちに気づくたびに。でも、怖い気持ちもある。もしこれがすべてを変えてしまったら？
「決めるのは君だ」翔太が言う。彼は私の手を取った。「でも、もし行くなら、私たちも一緒だ」
奏が頷く。「答えがわかるのはいいことかも」
翼は肩をすくめた。「それに、たかが週末だろ。何かまずいことでも起きるっていうのか？」
二日後、私たちは山道を車で走っていた。高田リゾートで目にするものに比べれば、うちのSUVはずいぶん普通に感じられる。その場所は馬鹿げていた。ガラスと高価な木材ばかり。何もかもが贅沢だ。
私たちが到着すると、マセラティが走り去っていくところだった。スモークガラスのせいで運転手は見えもしない。
ロビーに足を踏み入れると、自分の服装が場違いに感じられた。すべてが金持ちを叫んでいる。受付のそばで小さなグループが待っていた。すぐに彼らだとわかった。
年配の夫婦が、私の生みの親に違いない。男性は背が高く、銀髪で、私と同じの目をしている。女性はいかにも富裕層といった風情で、優雅だ。二人とも緊張しているように見える。
だが、もう一人いた。私と同じくらいの年の、黒髪の女性だ。美しいが、冷たい。その微笑みは、目にまで届いていなかった。
きっとこの人だ。四十五年間、私の居場所を奪っていた女。私が……どこにいたんだっけ？ そう、私が中流家庭、水原家に育てられている間、ここで育った偽物の娘。
「あなたが、長年行方不明だった妹ね」彼女が言う。声は甘いが、嘘っぽい。「私は篠原舞子。ずいぶん……本物っぽいじゃない」
そういう手で来るわけね。「本物っぽい」の前の間は意図的だ。隣で翔太が身を固くするのがわかる。奏が私の手を握る。
年配の女性が前に進み出る。彼女の目は涙ぐんでいた。「玲文。まあ、あなた、私の若い頃にそっくりだわ」
高田恵子。私の、生みの母。
彼女は私を抱きしめようと動き、そして止まった。許されるのかどうか、確信が持てないかのように。
男性も前に進み出る。高田武。私の、生みの父。彼はもっと形式張っている。私の手を取り、握手をした。「来てくれて感謝している。さぞかし戸惑っていることだろう」
戸惑っている。でも、彼らが考えているような戸惑いではない。この豪華なロビーに立ち、舞子の偽りの微笑みを見ていると、私は本当の家のことを考えていた。そこでは、愛情が金に左右されることなど決してなかった。
「ご家族用のスイートをご用意しましたわ」恵子が熱心に言う。「プレジデンシャルスイートはもう予約が入っておりましたの」
舞子の笑みがさらに広がる。「ええ、隆と私が来るときはいつも予約するんです」隆というのは彼女の夫だろう。「普通の……お部屋でも快適にお過ごしいただけるといいのですが」
まただ。偽りの気遣いに包まれた、あのさりげない侮辱。この女は、私にここにいてほしくないのだ。
私たちの部屋は良かった。実のところ、かなり良い。だが、このリゾートが提供する最高のものではないことは明らかだ。子供たちは気にしていない。明日のスキーに興奮している。
荷解きをしていると、リゾートのウェルカムフォルダーを手に取った。表紙には家族や山の美しい写真が載っている。だが、そのキャッチコピーに私の血は凍りついた。
『高田リゾート、五世代にわたる家族の伝統。持続可能な開発と環境保護への貢献』
私はベッドにどさりと腰を下ろした。こんなこと、ありえない。
これはただのリゾートじゃない。あのリゾートだ。私が何か月も調査してきた。私のオフィスにある三つのファイルキャビネットを埋め尽くすほどの環境違反を犯している。私が来週、訴訟を起こす予定の。
私は家族を探しに来た。その代わりに、次の法廷での敵を見つけてしまった。
「手つかずの自然」が写った光沢のある写真を睨みつける。私の頭に浮かぶのは、ファイルに隠された本物の環境報告書のことばかり。高田リゾートが言うところの、土地を守るという誓約とは全く異なる物語を語る、あの報告書だ。
この週末は、ずっと複雑になってしまった。
ほとんど眠れなかった。目を閉じるたびに、あの環境報告書が浮かんでくる。私の生みの親の家族が経営するリゾート。月曜日に私が起こすはずの訴訟。
なんてめちゃくちゃな状況だ。
朝はあまりにも早く来た。子供たちはもうスキーに行くことで頭がいっぱいだ。翼はスマホで天気をチェックしている。奏はコーヒーを飲みすぎたみたいに跳ね回っている。
「母さん、今日のパウダースノー、最高みたいだよ」翼が言う。「早めにゲレンデに行ってもいい？」
私は無理に笑顔を作った。「もちろん。まずは朝食にしましょう」
リゾートのダイニングルームは、まさに私が想像した通りだった。木と窓と、高価な食事をとる金持ちたち。私たちは窓際のテーブルについた。
まるで待ち構えていたかのように舞子が現れた。頭のてっぺんからつま先まで、デザイナーブランドらしきスキーウェアで固めている。すべてが完璧にコーディネートされている。ヘルメットにさえ、見慣れないロゴが入っている。
「おはよう」彼女が言う。その笑顔は昨日と同じくらい偽物だ。「今日はみんなで一緒にスキーをしましょうかと思って。もっとお互いを知るために」
偽りの親しみやすさと、私たちの装備を見下すような視線と、どちらがより不快か、私にはわからなかった。
