第78章 ねえ、彼女が泣いた

鈴木莉緒はその一言を見ても、何がおかしいのか気づかなかった。

【もういない】

二文字を送った後、また以前の状態に戻ってしまった。

鈴木莉緒はもう慣れかけていた。

退勤時間まで、森遥人とのチャットのやり取りはその二文字で止まったままだ。

男心というのも、海のように深く測りかねるものだ。

鈴木莉緒が同僚たちと会社を出てタクシーを拾おうとすると、森遥人の車が会社の向かいに停まっているのが見えた。

彼女は同僚に手を振って別れると、その車へと向かった。

森遥人は車内に座ったまま、鈴木莉緒がびっこを引いてこちらへ歩いてくるのを見ていた。

彼女の顔には、淡い笑みが浮かんでい...

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