第105章 艶めかしい

岡本凜太郎はふと見惚れてしまった。山口夏美と初めて会った時も、この手に目を奪われたことを思い出す。彼女はコンピュータのスキルが高いだけでなく、囲碁も一を聞いて十を知るほど飲み込みが早く、滅多にいない天才だ。

「ねえ、この手は左がいいかしら。それとも対角のほうがいい?」

山口夏美は碁石を指に挟み、盤面をコツンと叩いて尋ねる。返事がないので顔を上げ、声を張り上げた。

「岡本凜太郎?」

岡本凜太郎は我に返った。視線が彼女の指先から、その艶やかな赤い唇へと移る。急に喉が渇いた。

山口夏美の角度からは、彼の喉仏がせわしく動くのが丸見えだったのだろう。彼女は好奇心から手を伸ばし、笑いなが...

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