第109章 落下する植木鉢

長谷川翼は煙草をくわえたまま言った。

「姉ちゃん、その恰好見てみろよ。どれも数十万は下らない代物だろ。六十万なんて端金(はしたがね)じゃねえか。値切るような真似すんなよ」

中島結子はまだ迷っていた。ふと、階下を通りかかった山口夏美と、窓辺の植木鉢が目に入った。刹那、先ほど前田謙信と山口夏美が親しげに話していた光景が脳裏をよぎる。山口夏美が囲碁を打てないことは知っているが、あの祭りの時のように、万が一にも突然覚醒でもしたら? これ以上、前田謙信の前で彼女にいい顔をさせるわけにはいかない。突然、彼女は笑みを浮かべ、階下の山口夏美を指差した。

「あの女、見える? 戻ってきた時、あの植木鉢を...

ログインして続きを読む