第82章 幼稚な岡本凜太郎

山口夏美は、漂ってくる焼肉の香ばしい匂いに、思わず口を開けてその肉に食らいつこうとした。ダンスドレスを完璧に着こなすため、夕食はリンゴ数切れで済ませていたのだ。今、お腹は確実に空いている。だが、横から伸びてきた手がトングの動きを遮った。

岡本凜太郎は眉をひそめて前田謙信を睨み、前田謙信は微笑んでそれを見つめ返す。二人の手には力がこもり、その薄い肉を互いに押し合っていた。

ぽとり、と音がして牛肉が地面に落ち、緑の芝生の上で一度弾んだ。

山口夏美は口に入るはずだった肉が突然消えたのを見て、岡本凜太郎を睨みつけた。

「何よ!」

前田謙信は、彼女が自分を庇ってくれていると思い込み...

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