第十五章

オリオン

運転席に腰を下ろし、車のドアを閉めた瞬間、全身の力が抜けるのを感じた。この二時間、ずっと被っていた仮面――男の人生を瞬き一つせずに破壊できる、冷徹で計算高いビジネスマンの仮面――が、ようやく剥がれ落ちた。

――ったく、仕事のこういうところは嫌になる。

ネクタイを緩め、オーディオシステムに手を伸ばす。アップビートでエネルギッシュな曲を探してスクロールした。音楽が車内を満たすと、自然と笑みがこぼれた。ビジネスの取引という点では、今日の案件は俺のレーダーにはほとんど引っかからないような些細なものだ。これまで汗ひとつかかずに何億ドルもの契約をまとめてきた。だが、これだけは? これだけは...

ログインして続きを読む