チャプター 254

ヒルダは、ダイアナが持っていたトレイにグラスを戻した。完璧に施されたメイクは、グラスの縁に口紅の跡ひとつ残していない。彼女は静かに言った。

「ダイアナ、あなたはまだ飲んでいないのね」

ヒルダが自分の分を飲み干した以上、ダイアナも当然のように残りのグラスを満足げに煽った。

ワインを口に含むと、彼女は満面の笑みを浮かべた。そのほっそりとした輪郭の顔は、異常なほどの興奮で赤く染まっている。

ヒルダが飲み終えるのを見計らって、そばに立っていたネイサンが彼女の肩を軽く叩いた。

「大丈夫ですか? まだ平気ですか?」

ネイサンは気遣わしげに尋ねた。

ヒルダは彼を見つめ、無関心を装って首を振った。

「え...

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