チャプター 353

普段は片時も離れないこの夫婦が、道中は一言も口をきかなかった。

結局、沈黙を破ったのはネイサンの方だった。彼はヒルダの機嫌を取ろうとこう言った。「テヒラのコンサートなんてパスして、そのまま君を見にスタジアムへ行くべきかな」

ヒルダは顔を背け、数十億の資産を持つ優雅で冷ややかな富豪の令嬢のような口調で答えた。「いいえ、結構よ。あの子のコンサートに行ってらっしゃいな。こちらのイベントくらい、私一人でなんとでもなるわ」

笑いを堪えながら、ネイサンは彼女に尋ねた。「ハニー、怒ってるのかい?」

「いいえ」ヒルダは答えた。

だが、その刺々しい声色からは、彼女のはらわたが煮えくり返っているのがあり...

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