第368章

ネイサンは彼女を見つめていたが、長い間、返事はなかった。部屋には常夜灯だけが灯り、外から聞こえるのは雨音だけだった。寄せては返すその静かで一定のリズムが、二人の世界を完全に満たしていた。

雨音を聞きながら、ヒルダの不安は少しずつ鎮まっていったが、心はまだぼんやりとしていた。「忘れられない激しい恋」と、「素朴で温かい愛」。どちらか一つしか選べないのだろうか?

忘れがたい恋は記憶に刻まれるけれど、一瞬の閃光のようで永遠には続かない。一方で、素朴で温かい愛は長続きするけれど、そこには刺激や情熱が欠けているように思える。愛はやがて日用品のようにありふれたものとなり、米や油、塩といった生活の糧と同じ...

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