第五十九章

事態の異常を察知した傍らのロボットが、素早く霧状の薬剤を噴射した。その霧を吸い込むと、リナックスは瞬く間に落ち着きを取り戻した。体内で沸騰していた血液がついに冷めていく。リナックスは、極度の興奮でまだ震えている自分の両手をじっと見つめた。その瞳は狼狽の色で満たされていた。

何が起きたんだ? なぜこんなことに? なぜ突然、感情の制御を失ってしまったのか? リナックスはかつて、これほど冷静さを欠いたことなど一度もなかった。

「ハハハ……」

顔を腫れ上がらせ、地面に横たわっていたヘックスが、大口を開けて笑った。口の端からは血が流れ出している。

「まさかお前が女のために、こんな失態を演じるとは...

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