第五十四章

パチン、と乾いた音が響いた。幸い、会場は拍手の最中だったので、誰にも気づかれずに済んだ。

小さな手は怒りに震えているようで、甲の産毛さえ逆立っているかのようだ。大きな手が近づこうとするたび、逃げ回って拒絶している。だが、大きな手はただ近づくだけでなく、抱きしめ、絡みつこうと執拗に迫ってくる。

何度かの攻防の末、赤くなった大きな手が、ついに不機嫌に逃げる小さな手を捕らえた。逃がさないとばかりに、力いっぱい握りしめる。

それでようやく、ヒルダもおとなしくなった。

ネイサンを離すまいと、彼女もまた渾身の力で彼の手を握り返したのだ。

一方、ブリアナはまだ会場を見回していた。まるで、十年前に自分...

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