第638章

身をかがめて犬を撫でていたヒルダは、二人の間で火花が散るような敵意が交わされたことには微塵も気づかず、熱心な表情で話し続けた。

「あら、これ主人の親戚の男の子の犬なの。どこかで見覚えがあると思ったわ! 残念ながら、私ハスキーの見分けがつかなくて気づかなかったの。どうりで私に懐くわけね。私のことを覚えていたんだわ。もう、あなたったら、どうしてこっそり犬を連れてきたりしたの?」

彼女はケーターのことを言っていた。

本心ではこの犬との関係を一切断ち切りたかったのだが、ネイサンが連れ戻してきてしまった以上、今はこうして言い訳を並べるしかなかった。

ケーターは口輪をはめられていたため、吠えたくて...

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