チャプター 680

ヒルダはもう目を開けていられなかった。ゆっくりと瞼を閉じ、道端に崩れ落ちるように気絶した。通りかかった人々は倒れたヒルダに目を留めたが、その皮膚が潰瘍でただれているのを見て、彼女が感染者だと悟った。まるで何か恐ろしい怪物であるかのように、誰もが彼女を避けて通った……。

午後十二時半。ターディ市民の集合は終わり、ゲート付近にはすでに数台のバスが待機していた。市民たちは逸る気持ちを抑えきれずにバスへと乗り込み、避難の時を待っていた。

戦争の混乱と喧騒の渦中、各国の外交官たちは一般市民よりも先に逃げ出していた。交通網は麻痺し、至る所で戦闘が繰り広げられている。飛行機や船がなければ遠くへは行けず、...

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