第4章 離婚熟考期間
二人は手続き窓口に入ると、事務員の表情はどこか冷淡で、こういった事態には慣れっこといった様子だった。ほとんどの離婚手続きに来る人たちは泣いたり騒いだり喧嘩したりするものだが、この二人のように感情が安定している人たちは、本当に珍しかった。
この二人は顔立ちも良く、まさにその場でデビューできるほどで、身なりも気を遣っているところを見ると、お金持ちなのだろう。どうして離婚することになったのだろうか?
事務員は不思議に思いながらも、二人のプライバシーについて余計な詮索はせず、手際よく手続きを進めた。署名、拇印、捺印と、前後合わせて10分もかからずに終わった。
しかし北野美月にとっては、それは特別に長く感じられた。北野美月の鼓動が耳元で鳴り響き、まるで一秒一秒が彼女が失おうとしているものを思い出させているかのようだった。
彼女は今日離婚証明書がもらえると思っていたが、予想外のことが...
「新しい規則によりますと、現在は離婚に一ヶ月の熟考期間がございます。本日登録した日から三十日以内であれば、どちらかが離婚を望まなくなった場合、関係書類を持って一方的に取り消すことができます」
事務員はそう言って、二通りの離婚申請書をそれぞれに手渡した。
「本当に何かと面倒ですね」北野美月はそこに書かれた条項を眺めながら、皮肉っぽく言った。「離婚には熟考期間があるのに、なぜ結婚にはないのでしょう?」
「どうした、もし結婚に熟考期間があったら、私と結婚しなかったのか?」山崎霧の顔が半分ほど暗くなり、薄い唇に冷たい笑みを浮かべた。
「そんなことないわよ!」北野美月は眉を上げた。「あなたから80億円も分けてもらったんだから。80億円よ、普通の人が一生働いても稼げない額。どう考えても私の勝ちね!」
山崎霧の顔はさらに暗くなり、明らかに不満げで、指がポケットの中で無意識に握りしめられていた。北野美月には、山崎霧が彼女を押しつぶしたいと思っているのではないかと疑う理由があった。
そう思うと、北野美月はさらに不機嫌になった。離婚を切り出したのは彼女だったのに、今本当に離婚することになったら、このような見せかけの態度をとるなんて。
偽善者!
一方、山崎霧は本当にいらだっていた。彼には理解できなかった。大和撫子のような北野美月が、どうして離婚するとなると別人のように変わるのか?今までは演技だったのか?それとも強がっているだけなのか?
実は、山崎霧は彼女と離婚したくなかったのだが、それは兄の遺志であり、従わざるを得なかった...
山崎霧は無力感とともにため息をついたが、心のどこかには諦めきれない思いもあった。しかし、彼がどんなことをしても無駄だと知っていた。二人はそれぞれの思いを抱えたまま、市役所の入り口で別れた。
北野美月がちょうど背を向けて立ち去ろうとしたとき、耳に聞き覚えのある弱々しい声が聞こえてきた。
「霧、手続きは終わった?」
林田優子?!
またこの人?!
待って、違う!今日の林田優子はいつもと違う。彼女はゆったりとした白いワンピースを着て、眉目には哀愁が漂い、まるで現代版の紫の上のようで、風が吹けば倒れそうだった。あの夜の横柄な態度はどこにもなかった。
最も重要なことは、彼女のワンピースがわずかにウエストが絞られていて、そのせいでお腹が特に目立っていることだった。
太ったの?
山崎霧の言葉が北野美月のわずかな幻想を打ち砕いた。
「車の中で待っていてって言ったじゃないか。どうして出てきた?外は寒いぞ、お腹の子は山崎家にとって大切なんだ、風邪を引かせるわけにはいかない」思いやりの言葉のはずなのに、山崎霧の口から出ると、どこか冷たさを感じさせた。
北野美月は自分が浮気されたと瞬時に感じた。
「おい!説明してくれるべきじゃないかしら?」
山崎霧は北野美月を見つめ、端正な顔立ちは波一つ立てずに平静だった。「お前が知る必要はない」
北野美月の心の中の最後のわずかな感傷も完全に消え去った。
彼が高嶺の花を演じていると思っていたのに、まさかチャラ男だったとは。浮気をしただけでなく、今や子供まで作っていた!
それなのに山崎霧は彼女という正妻に対して素っ気なく、北野美月はこの男性が不能なのではないかと疑ったほどだった。
今見れば、彼は違う!とても元気だった!
しかし浮気するなら、浮気する態度を持つべきだ。
「あんた...」
「霧を責めないで。全部私が悪いの。殴るなり罵るなり、私にしてください...」
「本当に?」
北野美月は手を高く上げ、一瞬のうちにその平手打ちが林田優子の白い顔に落ちようとしていた。北野美月の動きはあまりにも突然で、手つきも速く、山崎霧は阻止する間もなく、林田優子も反応できず、ただ恐怖に目を閉じるだけだった...


























































