第3章

三日後、母の容態がようやく安定した。医者の話では、あと一週間は入院して経過を観察し、その後は自宅で療養する必要があるとのことだった。

私は母のベッドの傍らに座り、眠る母を見つめながら、様々な感情に心をかき乱されていた。この三日間、母に付き添いながら、私はずっと裕也の申し出と、自分の将来について考え続けていた。

「香織、荷物をまとめに行きなさい」突然、母が目を開けて言った。弱々しいながらもはっきりとした声だった。「あんな場所にはもう住むんじゃないわ」

涼介のマンションのことだ。この三年間、私はほとんどそこで暮らし、たまに母に会いに実家に帰るだけだった。

「お母さん、目が覚めたのね」私は母の手を握った。「そばを離れたくないよ」

「ねえ、香織。あんな動画、見てしまったわ」母の目に痛みの色が走った。「もっと早く止めてあげるべきだった……。あなたを守ってあげられなくて、私の責任よ」

「お母さんのせいじゃないよ」私は首を振った。「私が甘かっただけ」

母は私の手を強く握りしめた。「荷物をまとめてきなさい。今日から、やり直すのよ」

一時間後、私は涼介の豪華なマンションのドアの前に立っていた。鍵を手にしながらも、それを差し込むことができなかった。

「十分だけ」と自分に言い聞かせた。「私のものだけ取って、二度と戻らない」

ドアを押し開けると、慣れ親しんだ香りが鼻をついた――涼介のお気に入り、高級な香水。途端に胸が締め付けられ、胸が締め付けられるような感覚に陥った。

泣くな。ここで絶対に泣いてはいけない。

リビングの様子は三日前とまったく同じだった。映画を観るときに使っていたブランケットはソファに置かれたままだし、コーヒーテーブルには飲みかけのラテのカップが、縁に私の口紅の跡を残したまま置かれている。

「このベッドで、どれほど甘い言葉を囁かれたことか……」寝室の戸口に立ち、空っぽの部屋に自分の声が虚しく響く。「全部、嘘だった」

ドレッサーの上には、高価なスキンケア製品が整然と並べられている。高級ブランドの化粧品……どれも一本で何万円もするような高級品だ。私は一本の香水に手を伸ばした――涼介が「本物の女神みたいな香りだ」と言った、あの香水に。

ガシャン!

私はその香水瓶を床に叩きつけた。琥珀色の液体が飛び散り、強烈な花の香りが一瞬で部屋に充満した。

「偽物なんていらない!」私は鏡の中の自分に向かって大声で言った。「今日から、私、水原香織は、自分の力で生きていく!」

クローゼットには涼介が買ってくれた服が溢れ、一つ一つに物語があった。このドレスは初めてのデートで。あのネックレスは「俺の姫様にふさわしい」と言いながら彼が留め具をかけてくれたもの……。

私はそれらを一枚ずつ取り出し、ベッドの上に丁寧に畳んでいった。一千万円もするダイヤモンドのネックレスに触れたとき、私の手は止まった。

初めて身につけたとき、これは愛の証だと思った。今では、それが彼が私を辱めるための小道具に過ぎなかったと知っている。

ブチッ――

留め具を無理やり引きちぎり、ネックレスを二つに引き裂いた。ゴミ箱の上でそれを握りしめ、私の手は宙で止まった。

「ううん」と考え直す。「これはあなたに返す。あなたがしたことを忘れないために」

荷造りを終えると、全ては小さなスーツケース一つに収まった。シンプルな服、数冊の本、そして母が私の十八歳の誕生日に描いてくれた小さな肖像画――そこでは私は明るく笑っていた。

あの頃は、こんなに辛い気持ちがどんなものか知らなかった。

部屋を出る前、コーヒーテーブルにメモを残した。

「出ていきます。あなたに買ってもらったものは全て寝室に置いてあります。真実を見せてくれてありがとう。――香織」

エレベーターからスーツケースを引きずり出し、私は振り返らなかった。涼介のマンションは過去になった。私の未来は、この先にある。

病院の近くに小さなアパートを借りた。三十平米の、みすぼらしい家具しかない部屋。でも、そこは私の城だった。自分のベッドで眠った最初の夜、私は泣いた――悲しみからではなく、安堵からだった。

それから数日間、私は新しい仕事の準備をした。裕也は山のようなビジネス書と市場分析レポートを渡してくれた。昼間は病院で母に付き添い、夜は小さなアパートで夜更けまで勉強に打ち込んだ。

母が退院した後、私は正式に浅川投資で働き始めた。オフィスでの初日、同僚たちの視線は好奇心と疑念に満ちていた。でも私は自分に言い聞かせた。仕事で実力を示せばいい、と。

三週間が瞬く間に過ぎた。今朝、私はヨーロッパ市場の分析レポートを書き終え、裕也の評価を待っていた。

「この市場分析は素晴らしい」裕也はファイルを置いて言った。その目には驚きの色がよぎった。「ヨーロッパ市場に対する君の洞察力は、私の期待を上回っている」

私は会議テーブルの向こう側に座り、冷静でいようと努めた。「あなたの投資が正しかったと証明したかったんです」

最初の週、同僚たちの視線は疑念に満ちていた。「彼女、本当に実力があるのか?」「なんで裕也が美術専攻の子を雇ったんだ?」「きっと、何か別の理由があるに違いない……」

ささやき声は聞こえていたが、反論はしなかった。私は一日十二時間働き、昼間はプロジェクトを分析し、夜はビジネスの勉強をした。実力で自分を証明したのだ。

「香織、あなたの提案がドイツ市場で抱えていた問題を解決してくれたわ」同僚の沙羅が歩み寄ってきて言った。その言葉には心からの感謝がこもっていた。「私たちのチーム、一ヶ月も議論したのに突破口が見つからなかったのよ。あなたが一週間で見つけたんだから」

心の声が叫んだ。やっとだ!私の能力を認めてくれる人が現れた!

「君には独特の視点がある。芸術的な視点から消費者の心理を理解しているんだ」裕也が歩み寄ってきて言った。彼の称賛は誠実なものに聞こえた。「さて、もっと大きなプロジェクトを引き受けてみる気はあるかい?」

私は彼を見上げ、新たに燃え上がる闘志を瞳に宿した。「はい、ぜひ」

仕事の後、私は病院にいる母を見舞った。それは日課となっていた。どんなに遅くまで働いても、母が無事であることを確かめなければならなかった。日ごとに回復していく母の姿を見ることが、私が前進し続けるための最大のモチベーションだった。

「お母さん、お医者様が順調に回復してるって」私は母の手を優しく撫でながら言った。顔色は手術前よりずっと良くなっている。「あと二週間で退院できるそうよ」

「香織」母の声はまだ弱々しかったが、その瞳には愛情が満ちていた。「痩せたわね。仕事、大変なんじゃないの?」

「全然大変じゃないよ。今の仕事、すごく好きなの」私は微笑んだが、ずっと胸にしまっていた疑問が口をついて出た。「お母さん、一つ聞いてもいい?」

母の表情がわずかに強張った。「何かしら?」

私は深呼吸をして、何気ない様子を装った。「お母さん……涼介さんのお父さんのこと、知ってる?鷹見さんのこと」

ガチャン!

突然、母の手にあった水のグラスが滑り落ち、床で砕け散った。母の顔は瞬時に死人のように青ざめた。

「そのことは聞かないで!」母の声は突然、激しく昂り、私がこれまで聞いたことのない恐怖に満ちていた。「絶対に、そのことは聞かないで!」

「お母さん、どうしたの?」私は母の反応に驚いた。「あなた……」

「香織、聞いて」母は私の手を強く握りしめ、とても強く握りしめた。「過去のことについて、誰が何を言おうと、信じちゃだめ。どれも真実じゃないから、わかった?」

母の目にある恐怖と絶望を見て、私の疑念はかえって強まった。「お母さん、本当は何があったの?涼介さんは、お母さんと彼のお父さん――」

「その名前は聞きたくない!」母は突然、大きな声で叫んだ。「お願い、香織、もう聞かないで!」

声を聞いた看護師が駆けつけてきた。「患者さんが興奮しすぎています。ご家族の方はご協力ください……」

私は病室を出ざるを得なかったが、母の反応は私に確信を抱かせた。ここには、私が知らない秘密がある。

家に帰る頃には、もう深夜だった。この三十平米のアパートは、涼介の豪華な部屋とは対照的だ。大理石の床も、大きな窓もない。新しい洗濯機すらない。

でも、ここは私のものだ。

質素な机に向かい、ノートパソコンを開いて、鷹見家に関する情報を検索し始めた。

「水原美奈、画家……鷹見芸術財団……助成金……」

検索結果によると、母は確かに二十三年前に鷹見芸術財団から助成金を受けていた。しかし、詳細な記録はなかった。

さらにキーワードを変えてみた。「水原美奈 鷹見 スキャンダル」「画家 スキャンダル」「不倫関係」……。

何も出てこない。

奇妙だった。涼介の話によれば、母と彼の父との「不倫関係」はスキャンダルになったはずで、少なくとも美術界や社交界に何らかの痕跡が残っているはずだ。

しかし、関連する記録はすべて、不自然なほどきれいに消し去られているように見えた。

「どうして何の記録も見つからないの?」私は独り言を言った。「本当にスキャンダルがあったなら、痕跡が一つもないなんてありえない……」

突然、携帯電話が鳴った。発信者番号は非通知だった。

「もしもし?」

機械で変えられたような、歪んだ声が聞こえてきた。「探るのはやめろ。過去に埋もれていた方がいいこともある」

「誰です?どうして私が調べていることを知っているの?」

「忠告だと思っておけ」電話は切れた。

私は携帯電話の画面を見つめ、心臓が激しく鼓動していた。誰かが私のインターネット検索を監視している?

これでさらに確信した。涼介の言葉に含まれていた悪意ある言葉の裏には、大きな秘密が隠されている。そして、誰かがその秘密が暴かれることを望んでいないのだ。

ノートパソコンを閉じ、窓辺に歩いて、新月市の夜景を眺めた。遠くに見える新月大橋がキラキラと輝き、この街がまだどれほどの秘密を抱えているかを思い出させた。

「私はもう、涼介に執着していた世間知らずの女の子じゃない」私は夜空に向かって言った。「自立した、強い女性になる。でもその前に、真実を見つけなければ。自分のためだけじゃない、お母さんのためにも」

どんなに残酷な真実であろうと、私は知らなければならなかった。

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