第8章

深夜の探偵事務所。誠の机に一人座る私の前には、ぞっとするような書類の束が広げられていた。デスクランプの薄暗い光の下で、一枚一枚が、何かを訴えかけているようだった。

「信じられない」静まり返ったオフィスに、私の声がはっきりと響いた。「母が『不倫』したなんて話、信じないわ」

誠はコーヒーメーカーから振り返った。その目にはプロとしての冷静な光が宿っている。「なぜだ?彼女自身が認めたんだろう――金に目がくらんで、自ら望んだことだったと」

「母を知っているからよ」私は母の日記を握りしめ、言い張った。「母は、人の家族を壊すくらいなら死を選ぶ人よ。それにこの日記を見て――『彼に無理やり』『私...

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