第13章 金田香奈の策略

オフィスの中で、急に携帯電話が鳴り止まなかった。

彼女は見なくても分かっていた。きっとお兄さんたちが「唐沢家秘密局」グループでメッセージを送っているのだろう。

このグループは次男の唐沢翔が作ったもので、当時は唐沢楓と水原悟の結婚を外に漏らさないように厳重に管理するためだった。

「瑛太さん、グループの内容を確認してくれない?携帯がうるさくて」と唐俏は隣にいる林田瑛太に言った。

林田瑛太は急いで携帯を手に取り、確認し始めた。

しばらくして、林田瑛太は唐沢楓に報告した。

「大変です。水原悟さんが金田香奈との結婚を公表して、今、釣りアカウントがデマを流してます。社長が不倫相手だって...」

唐沢楓は目を見開いた。心中穏やかではなかった。

一体どういうことだ。どうして自分が不倫相手にされているのか。

「唐沢家秘密局」グループでは、唐沢楓のお兄さんたちが大騒ぎしていた。

三男は怒りで足を踏み鳴らしながら、グループに書き込んだ。

「水原グループのやつら、調子に乗りすぎだ!このままじゃ済まないぞ。いっそ倒産させてやろうか」

四男はさらに激怒して、同意した。

「その通りだ。倒産させるだけじゃなく、水原悟のやつ、くらえ!唐沢家を甘く見るなよ」

唐沢佑はお兄さんたちの興奮ぶりを見て、急いでグループで諭した。

「みんな、そんなに怒るな。悪いことはするな。事情もまだはっきりしていないんだ。冷静になろう」

唐沢楓はお兄さんたちのメッセージを見て、心が温かくなった。でも、自分のせいで彼らに衝動的な行動をさせたくなかった。

グループに書き込んだ。

「落ち着いて。私と水原悟はもう離婚してるの。今は唐沢家のお嬢様だけよ。彼とは何の関係もないわ」

その言葉の裏には、自分は簡単にいじめられるような存在じゃない、必ず反撃するという暗示が込められていた。

一方、水原悟の方は大混乱に陥っていた。

広報部の電話は鳴り止まず、網島新の携帯も同様だった。メディアは血の匂いを嗅ぎつけた鮫のように群がってきた。

水原悟の結婚と再婚のニュースは、まるで大きな爆弾のように盛京中、いや全国に衝撃を与えた。

水原悟がこのニュースを知った時、顔を真っ赤にして怒鳴った。

「一体どうなってるんだ?誰が情報を漏らした?このニュースに関わった者は全員クビだ!」

水原グループで頭を抱えている最中、突然携帯が鳴り、金田香奈からの着信だった。

電話の向こうから泣き声が聞こえてきた。

「悟くん、記者に囲まれてます。怖いわ。助けに来て」

水原悟は心配でたまらず、すぐに飛び出そうとした。

傍らの網島新は慌てて制止した。

「社長、そのまま出られては。今の状況は不明確です。そう単純な話じゃないかもしれません。罠の可能性も」

水原悟は眉をひそめ、いらだたしげに言った。

「香奈が危険な目に遭ってるんだ。放っておけない」

そう言って、躊躇なく水原グループを飛び出した。

一方、金田香奈は大勢の記者に囲まれていた。

涙を浮かべた目で、か弱そうな様子を見せていた。

しかし実際は、これは全て彼女の自作自演だった。

白石さゆりの黒い噂の背後にいたのも、彼女だった。

記者たちは口々に質問を投げかけた。

「金田さん、水原悟さんとの関係は?」

「金田さん、水原さんの再婚についてご存知でしたか?」

金田香奈はわざと困ったような表情を作り、答えた。

「私...悟さんとは親しい友人です。それ以外のことは分かりません」

この曖昧な答えに記者たちは更に食いついて、状況は一層混乱した。

そこへ水原悟が到着した。

群衆を押しのけて金田香奈の傍らに駆け寄り、しっかりと守るように抱きしめながら、大声で言った。

「もういい加減にしろ!何か聞きたいなら私に聞け!」

オフィスにいた唐沢楓は、このライブ配信を見ていた。

心に刺されたような痛みを感じ、息ができないほどだった。

愛しているかどうかは、こんなにも明確なのだと。

かつては自分も水原悟の心の中に場所があると思っていた。たとえ二人の間に問題があっても、ずっと黙って耐えてきた。

でも今、水原悟が躊躇なく金田香奈のもとへ駆けつける姿を見て、全てを理解した。

自分は水原悟にとって、ただの時間稼ぎの道具だったのかもしれない。

苦笑いしながら独り言を言った。

「唐沢楓よ、本当にバカね。これまでの努力は全て水の泡だったわ」

水原悟に対して残っていたわずかな感情も、この瞬間に完全に消え去った。

もうこれ以上バカなことはできない、全てを手放して自分の人生を歩む時が来たのだと悟った。

唐沢楓とお兄さんたちは、この間ずっと金田香奈のことを密かに調査していた。

そして努力の結果、かなりの爆弾情報を掴んでいた。

唐沢楓の次兄、唐沢翔はハッキングの達人で、調査能力も抜群だった。

彼は金田香奈のSNSから調査を始め、彼女の人脈も徹底的に調べ上げた。

すると驚くべき事実が発覚した。金田香奈とハーフの男性との親密な写真が見つかったのだ。

その写真に写る二人の仕草や表情は、親密さを隠そうともしていなかった。

それだけではない。唐沢翔は金田香奈がアメリカで出産した証拠も見つけ出した。

妊娠線の写真や、美容整形クリニックの診断記録まであった。

これらの証拠は、まさに爆弾のような衝撃的な内容だった。

唐沢楓はこれらを見て、複雑な思いに襲われた。

写真や資料を見つめたまま、しばらく言葉が出なかった。

唐沢翔は顔を真っ赤にして叫んだ。

「水原悟のやつ、頭おかしいんじゃないのか?楓みたいないい女を放っておいて、あんな女を選ぶなんて。見ろよ、こんなことやってるのに、まだ気付いてないんだぞ」

唐沢楓は苦笑した。心に苦い思いが広がったが、過去は過去だと分かっていた。

心の中で言い聞かせた。

「唐沢楓、もうこの男のために悲しむのはやめなさい。もう関係ない人なのよ」

もちろん、唐沢楓はこのまま黙って引き下がるような人間ではなかった。

もう水原悟への愛情はないが、金田香奈を好き勝手にさせるわけにはいかなかった。

適切なタイミングで、金田香奈の秘密を暴露しようと考えていた。

心の中で思った。

「金田香奈、思い通りにいくと思ってるの?ふん、そうはいかないわよ」

お兄さんたちも彼女の考えに賛成で、金田香奈のような女は罰を受けるべきだ、好き勝手にさせてはいけないと考えていた。

そこで彼らは、これらの証拠を最も効果的な方法で公開し、金田香奈を完全に失脚させる計画を練り始めた。

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