第29章 ホテルにいるのは唐沢社長ではない?

仕立屋は水原悟を見るなり、驚いて声を上げた。

「あら、あなたじゃない?」

水原悟はイケメンだったので、仕立屋は彼のことを覚えていた。

水原悟は手に持っていた服を差し出し、急ぎ気味に言った。

「職人さん、この服を直していただけませんか」

仕立屋は服を受け取り、よく見ると、思わず息を呑んだ。

心配そうに言った。

「まあまあ、この服をどうしてこんな状態に?」

水原悟は申し訳なさそうに答えた。

「不注意で、こんなに傷んでしまって」

仕立屋は首を振りながらため息をつく。

「これだけ傷んでいると、完璧な修復は難しいですね」

「分かっています。でも、できる限り直していただけませんか...

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