第3章 誕生日の花火
白石さゆりは彼の突然の詰問に呆然としたが、驚きと共に、強い反発の感情が湧き上がってきた。
「私が裏切った？自分に問いかけるべきでしょう！誰が先に私たちの結婚を裏切ったの、水原悟！」彼女は反論した。その声には長い間抑え込んできた辛さと怒りが滲んでいた。
「水原悟、やり過ぎだぞ！」唐沢佑は一歩前に出て、白石さゆりの前に立ちはだかり、慎重に振り返って彼女に言った。
「せっかくの気分をクズに台無しにされたね。行こう」
白石さゆりは素直に背を向けた。
「行くな！」水原悟は低く唸るように言い、感情は更に激しくなり、裏切られた怒りで胸が一杯だった。彼の手は本能的に白石さゆりに伸びたが、唐沢佑に遮られた。
唐沢佑は怒りの眼差しで水原悟を睨みつけ、一歩も引かなかった。
「白石さゆり、よくやったな。説明してくれないか、この方は誰なんだ？」水原悟の表情は冷たく威圧的だった。
「水原社長の記憶力が悪いようですね」
唐沢佑は妹を抱きしめながら、余裕のある薄い笑みを浮かべた。
「ビジネスの場では、私たちは一度や二度ではありませんよ」
「白石さゆり、私の質問に答えろ」水原悟は唐沢佑を完全に無視し、さらに詰め寄った。
「もう離婚したでしょう、水原社長。この方が誰かなんて、水原社長に関係ないはずです」唐沢楓は艶やかな唇を開き、冷たく決然と返した。
「もう二度と会いたくないわ、水原悟！」
白石さゆりの声には僅かな震えが混じっていた。彼女の十三年の歳月を魅了し続けたこの男によって、彼女の愛は最後には手ひどく壊されてしまった。もう愛することができなくなっていた。
彼女は唐沢佑と並んで歩き出した。まるでその瞬間、世界全体が水原悟から切り離されたかのようだった。
「行くな！」水原悟の心に強い不安が生じ、必死に追いかけようとした。
「正式な離婚も済んでいないのに、もう他の男と一緒にいるのか？」
「正式な離婚はまだですが、水原社長の愛人は待ちきれずに上がり込んできましたね。水原社長にはどんな資格があって私と他人との関係を邪魔するんですか？」
唐沢楓の黒髪が風になびき、赤い唇に嘲りの笑みを浮かべた。それは彼が今まで見たことのない美しさで、驚くほど野性的だった。
白石さゆりの口調があまりに鋭く、水原悟はいつも従順で愛らしい白石さゆりがこんな口調で話すなんて信じられなかった！
しかしその時、金田香奈が突然苦しそうに叫び声を上げた。
「あっ、私の足！」
水原悟はその鋭い叫び声に注意を引かれ、目に複雑な表情が浮かんだ。
「香奈、どうした？」彼はすぐに振り返ったが、その時には既に白石さゆりと唐沢佑はこの機会を捉えて素早く立ち去っていた。
「大丈夫よ、ちょっと足をくじいただけ」金田香奈は懸命に微笑みを作り、声をなるべく明るく聞こえるようにした。しかし頭の中では水原悟への不安が潮のように押し寄せていた。彼女は絶対に白石さゆりと水原悟が一緒になる可能性を許すわけにはいかなかった！
「病院に連れて行こう」金田香奈を落ち着かせた後、水原悟はもう白石さゆりの姿を見つけることができなかった。彼の心に喪失感が押し寄せ、頭の中に浮かんだのは、怒りと涙が混ざり合った白石さゆりの姿だった。
その時既に白石さゆりと唐沢佑は口論の騒ぎから逃れており、唐沢佑は彼女の手をしっかりと握り、心の中で誓った。もう誰にも彼女を傷つけさせない、と。
唐沢楓と唐沢佑は急いで唐沢家に戻り、あの馴染みのドアを開けると、外の騒動と怒りを後にしたかのようだった。唐沢楓は深く息を吸い込んだ。家の匂いがした。
海門町唐沢家、青山苑。
唐沢楓が帰ってきた！
リビングに入るなり、次兄の唐沢翔が喜々として迎えに来て、目には心配と安堵の色が光っていた。
「楓、やっと帰ってきたか！ずっと外にいるのかと思ったよ！」唐沢翔の声には深い思いやりが満ちていて、唐沢楓をしっかりと抱きしめた。
「どうしてこんなに遅かったんだ？本当に心配したぞ！」
「大丈夫よ、翔兄さん。ありがとう」唐沢楓は唐沢翔の抱擁の中で温もりを感じ、心の中の不安が徐々に落ち着いていった。
さっきの口論で唐沢佑の気持ちはまだ興奮していて、突然水原悟のことを思い出し、怒りが再び湧き上がった。
「楓、お前がこんな目に遭わされたんだ。必ず水原悟に仕返しをしてやる！」彼は拳を握りしめ、目に怒りの炎を宿した。
「神様もきっと味方してくれるはずだ」
「水原悟って野郎め！私の妹を裏切りやがって！明日にでも水原グループの徹底調査を始めて、四兄に暇を見つけて始末してもらおうか！」唐沢翔も負けじと同調した。
二人の兄は唐沢楓のために正義を取り戻そうと決意を固めた。
しかし、唐沢楓は突然彼らの興奮を遮った。
「もういいの、彼のところには行かないで！」彼女の声は刃物のように、唐沢佑と唐沢翔の怒りを切り裂いた。二人は一瞬呆然とし、顔を見合わせた。
「楓、何を言ってるんだ？」唐沢佑は眉をひそめ、彼女の考えが理解できないようだった。
「もう彼とは何の関係も持ちたくないの」唐沢楓の目には強い意志が宿り、心の中には不甲斐なさがあふれていたが、既に過去の自分を手放す決心をしていた。彼女は静かに言った。
「水原悟のことはこれで終わり。分かって欲しいの」
「でも、楓を傷つけたんだぞ！」唐沢翔は思わず反論し、目に心配と不満が浮かんだ。
「このまま許すわけにはいかない！やったことの代償を払わせなければ！」
「私のことを思ってくれてるのは分かってる。でももう追及したくないの」唐沢楓の声は次第に小さくなったが、鉄のように固い決意を秘めていた。彼女は分かっていた。本当に手放してこそ、心の解放が得られ、新しい始まりを迎えられるのだと。
唐沢佑と唐沢翔は互いに顔を見合わせ、唐沢楓の目に浮かぶ決意を見て、二人の怒りは徐々に彼女の強さによって消されていった。最後に、唐沢佑はため息をつき、ゆっくりと拳を下ろした。
「とにかく、このまま済ますわけにはいかない！私を侮るのはいいが、楓を侮るなんて、これからは水原グループを永遠に射程圏内に置いておくぞ！」
水原悟は自分の水原グループが既に唐沢家の若旦那たちに狙われていることを知らなかった。彼はまだ網島新に一つの仕事を任せていた——白石さゆりの調査だ。
この数日の白石さゆりの様子から見て、彼女の身分には問題があり、表面上の無害さとは違って、謎に満ちていた。
白石さゆりは一体何者なのか？
水原悟は床から天井まである窓の前に立ち、遠くの往来を見つめていた。光の点で飾られた長い列が遠くまで延び、果てしなく続いていた。
道の果てには何があるのだろう？白石さゆりの住む山村なのだろうか？
「網島新、何か分かったか？」
網島新は落ち着かない様子で額を掻き、水原悟の冷たい視線を受けた。
「君の態度を見ていると、仕事への取り組み方を疑わざるを得ないな」
「水原社長、私は真剣にやっております」
「では能力の問題か」
「私は...」網島新は何を言えばいいのか分からなくなった。実は彼自身もこれがどういうことなのか理解できていなかった。調査結果をありのままに話すしかなかった。
奥様はあの日帰られた後、以前働いていた療養院には戻っていない。そして奥様の故郷とされるY市の住所も偽りで、そこには白石という姓の家は一軒もなかった。
網島新は地元の市役所にまで確認に行ったが、該当者は見つからなかった。
どう見ても不可解だった。しかし奥様が意図的に水原グループに近づいたとしても、その目的は何だろうか？正直なところ、奥様は水原社長に対してあまりにも献身的だった。
もし接近する理由を探すとすれば、奥様が恋に落ちていたとしか考えられない。
「唐沢佑の方は？調べたのか？」
