第4章 唐沢家

アミジマが歯を食いしばるような口調を察知し、素直に答えた。

「唐沢社長のところは手を出しにくいですね。唐沢家が誰かを匿おうと思えば、簡単すぎるほど簡単ですから」

「唐沢佑め、人当たりはいいように見えて、まさか横取りとはな。下劣な野郎だ!」水原の眉が険しく跳ね上がり、漆黑の瞳に怒りの炎が燃え上がった。

「あの、横取りというより、これは筋から言えば尻拭いというか…」アミジマは思わず公平な意見を述べかけたが、すぐに言葉を飲み込み、息を切らして咳き込んだ。

あの夜、唐沢佑が白石さゆりを守る姿が目に焼き付いている。あの男の眼差しに宿る情愛の深さといったら。

水原は何故か、胸が重く沈んでいた。

あの無口な妻が、一体どれほどの魅力を持っているというのか。唐沢佑のような名門で知られる情も欲も持たない神父までもが、彼女の護衛騎士となるとは。

ソファに座った水原は、潮のように揺れ動く心を抑えきれず、白石さゆりとの言い争いや失意の記憶が次々と脳裏に浮かんでは消えた。少し落ち着こうとした矢先、携帯が突然鳴り響き、おじいさんからの着信だった。彼は胸が締め付けられる思いで、おじいさんが何か言いたいことがあるに違いないと察し、電話に出た。

「水原悟、この不孝者め!離婚するつもりだと聞いたぞ。その上、金田香奈などと付き合っているとは。お前の考えが全く分からん!」電話の向こうで、おじいさんの声が雷のように轟き、容赦なく怒りを爆発させた。

「すぐにわしの執務室に来い!」

部屋に入るなり、応接室に漂う重苦しい空気が水原を窒息させそうだった。

水原明一は、側近の秘書と水原光景に支えられながら、杖をつきながら腰を下ろした。その顔は墨を塗ったように黒かった。

水原は背筋を伸ばしたまま目上の前に立ち、言葉には些かの反抗心を滲ませながら、胸の内に溜まっていた思いを吐き出した。

「おじいさん、三年の期限は満ちました。約束でしたよね。白石さゆりとの結婚は三年限り、その後は続けるにしろ別れるにしろ、私の自由意思だと」

「なんという因果な!わしの嫁が気に入らんというのも飽き足らず、孫の嫁までろくでもないのを選ぶとは!わしはさゆりが欲しいんじゃ!さゆりを連れ戻してこい!さゆりがおらんではわしは寝食も安らかではない。誰もいらん、さゆりだけが我が家の孫嫁じゃ!」おじいさんの声は次第に大きくなり、怒りのあまり理性を失いかけ、最後は子供のように駄々をこね始めた。

「私の人生だ、選ぶ権利は私にある!」水原は怒鳴り返し、胸の内に溜まっていた感情が火山のように噴出した。もはや彼には、おじいさんからの圧力と非難に耐える余裕はなかった。

「さゆりのような良い嫁を捨てて!その上、金田香奈のためにわしと争うとは!」おじいさんは激怒し、全ての不満を一気に吐き出すかのようだった。

激しい言い争いの最中、突然水原の携帯が再び鳴り、今度は金田香奈からのメッセージだった。胸が高鳴り、すぐに電話に出た。

「悟くん、会いたくて...今、本社ビルの下にいるの...」金田香奈の声は小川のせせらぎのように優しく甘美で、瞬時に彼の怒りと煩悩を溶かしていった。

その時、沈おじいさんも電話越しの声を聞いてしまい、突然顔色が変わり、震える指で水原を指さした。怒りが嵐のように襲い掛かり、胸が激しく上下し、水原の目の前で気を失ってしまった。

全ての争いと怒りが一瞬で凍りついたかのように、水原は恐慌状態に陥り、慌てて電話を切り、おじいさんの元へ駆け寄った。

「おじいさん!大丈夫ですか?」

大騒ぎの末、ようやくおじいさんを病院に搬送することができた。

水原も金田香奈に対して少し不満を感じ始めていた。まだ正式に離婚も成立していないのに、彼女があまりにも堂々と姿を見せすぎる。

もし誰かに見られて写真でも撮られたら...

彼自身はスキャンダルなど気にしなかったが、もし白石さゆりが見たら、傷つくのではないだろうか。すぐに水原は自嘲的に笑った。今や彼女には新しい引き受け手がいるのだ。前夫のことなど気にもしないだろう。

おじいさんは未だに彼女のことを気にかけている。あの尻軽女を良妻だと思い込んでいるなんて。

おじいさんが回復したら、必ず白石さゆりの本性を見せてやろう。しかし、金田香奈の来訪は本当にタイミングが悪かった。

まあいい、香奈はあんなに純真で優しいのだから、きっと故意ではないはずだ。

「社長、こちらの件は奥様にお知らせした方が...」アミジマが尋ねた。

水原は携帯を握りしめたまま、心中葛藤が渦巻いていた。

おじいさんが先ほど気を失った光景が今も鮮明に蘇り、罪悪感と不安が潮のように押し寄せてきた。白石さゆりのことを思い出し、この一部始終を彼女に伝えたい、おじいさんに会いに来てほしいとさえ思った。しかし、これまでの言い争いや不快な記憶を思い出すと、なかなか面子が立たなかった。

「本当にこの電話をかけるべきなのか?」水原は小声で呟いた。内なる葛藤は終わりのない戦いのように、彼の決意を揺さぶり続けた。ついに、独り苦悩した末、深く息を吸い込み、決然と白石さゆりの番号を押した。

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