第110章

「もしもし!」

私は慌ただしく通話ボタンを押した。

「もしもし、鈴木社長。今はまだ、そうお呼びしてもよろしいでしょうか?」

受話器の向こうから聞こえてきたのは、意外な人物の声だった。まさか、亡き母の専属秘書だった——松本秘書だとは思わなかったのだ。

私は一つ咳払いをし、平静を装って応じた。

「どうしたの、松本秘書?」

「鈴木社長、実はお電話したのは、折り入ってお願いがありまして」

松本秘書との付き合いはそう長くはない。だが、彼がきわめて優秀な事務方であることはよく知っている。その彼が今日、私に頼みがあると言うのだ。おおよその見当はついていた。

「ええ、いいわよ。力にな...

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